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第十一章 災厄の本能

旧東京第七区中央区。

黒い雷と黒い雷がぶつかり合う。

衝撃波が廃墟を吹き飛ばした。

崩壊した高層ビル。

砕けた道路。

吹き荒れる暴風。

その中心。

神楽とEVEが睨み合っていた。

神楽の刀から黒雷が迸る。

EVEの右腕から同じ黒雷が放たれる。

二つの力は互角だった。「あり得ない……」

神楽が呟く。

自分だけのRAIGIN。

神楽しかできない制御した黒雷。

その力を。

目の前の存在は一度見ただけで再現した。

常識では考えられない。

EVEは黒雷を纏った右腕をゆっくり下ろした。

そして淡々と言う。

『黒雷を構成するエネルギー粒子を解析、物質変換プロセスを再構築出力パターンを複製しました』

まるで当たり前のことを告げるような口調だった。

神楽の驚く。

「そんなこと……」

できるはずがない。

だが。

現実に目の前で起きている。

神楽は刀を握り直した。

その時だった。

地面が揺れた。

まるで地下で巨大な何かが暴れているような振動。

悠人が顔を上げる。

「なんだ……?」

神楽も。

EVEも。

同時に視線を向けた。

そこから。

圧倒的な殺気が迫ってきていた。

本能が警鐘を鳴らす。

次の瞬間。

遠くのビルが吹き飛んだ。

さらに。

一直線。

何かがこちらへ向かっている。

廃墟を踏み潰し。

建物を突き破り。

止まることなく。

神楽が刀を構えた。

EVEも僅かに姿勢を低くする。

悠人だけが何も分からず固まっていた。

そして。

空が裂けた。

巨大な黒い影が廃ビルの上へ着地する。

周囲の建物が揺れる。

衝撃で窓ガラスが砕け散った。

赤い双眼。

漆黒の装甲。

鋼鉄の牙。

全身に無数の傷跡を残しながらも。

圧倒的な存在感を放つ獣。

A級RAIGINフェンリル。

悠人の顔から血の気が引く。

「なんだあれ!?」

地下研究施設で暴れていた災厄。

フェンリルは悠人を見ない。

神楽も見ない。

赤い双眼は。

ただ一人。

EVEだけを見据えていた。

まるで長年探し続けた獲物を見つけたように。

静かに。

確実に。

殺意を向けている。

神楽が眉をひそめる。

「どういうこと……?」

その時。

初めてだった。

EVEの声に。

感情のようなものが混じった。

『フェンリル……』

僅かな沈黙。

そして。

『政府の犬が』

その声には。

明確な敵意があった。

悠人は目を見開く。

今までのEVEは機械のようだった。

怒りも。

憎しみも。

何も感じさせなかった。

だが今は違う。

フェンリルを見つめるEVEの瞳には。

冷たい殺意が宿っていた。

フェンリルも低く唸る。

ゴルルルルルル……

大気が震える。

神楽が小さく息を吐いた。

「なるほど」

刀を構える。

「どうやら今日は厄介な日みたいね」


悠人は叫んだ。

「いやいやいや!!」

誰も聞いていない。

「なんでA級まで来るんだよ!?」

神楽。

EVE。

フェンリル。

化け物が三体。

しかも全員が戦う気満々だった。

悠人だけが泣きそうになる。

「帰りたい……」

だが。その願いは叶わない。

フェンリルが咆哮した。

ガアアアアアアアアアアアッ!!

悠人は反射的に身を縮める。

「っ……!」

耳が痛い。

鼓膜を殴られたような感覚。

だが。

それ以上に。

目の前の光景が異常だった。

戦闘開始。

そう認識した瞬間には、もう誰もその場にいなかった。

フェンリルが動く。

神楽が消える。

EVEも消える。

見えない。

本当に見えない。

悠人の目では追えなかった。爆発音。金属音。

雷鳴。

音だけが連続して響く。

遅れてアスファルトが吹き飛び、ビルの壁が崩れる。

その結果だけが視界に映る。

「なんだよこれ……」

思わず呟く。

戦いですらなかった。

災害だった。

フェンリルの前脚が振るわれる。

鋼鉄の爪。

だが。

その軌道上にいたはずのEVEは既にいない。

『回避成功』

淡々とした声。

右手を突き出す。

青白い粒子が収束した。高出力エネルギー砲。

一直線。

フェンリルの顔面へ直撃。

爆煙が噴き上がる。

「当たった!」

悠人が叫ぶ。

だが。

煙の中から飛び出してきたのは。

傷つきながらも健在なフェンリルだった。

赤い双眼。

殺意だけが増している。

その瞬間。

上空から神楽が降ってきた。

「そこ」

短い一言。

刀が振り下ろされる。

刃が装甲へ食い込む。

同時に。

黒雷。

黒い稲妻がフェンリルの全身を駆け巡った。

フェンリルが咆哮する。

ガアアアアアアアッ!!

衝撃波。

周囲の廃ビルが崩壊する。

だが。

神楽は既に離脱していた。

一秒もその場に留まらない。

EVEが追撃。

神楽が牽制。

フェンリルが暴れる。

三つの影が旧東京を縦横無尽に駆け回る。

神楽。

EVE。

フェンリル。

三者が激突するたびに街が壊れる。

その光景を見上げながら。

悠人は乾いた笑みを浮かべた。

「これ……」

喉が張り付く。

手が震える。

視線を外せない。

「勝てるのか……?」

誰に向けた言葉でもなかった。

フェンリルの前脚が振るわれる。

神楽が回避。

その直後。

EVEの砲撃。

爆炎。さらに神楽の黒雷。

フェンリルの装甲が砕ける。

「いける……!」

悠人は思わず叫んだ。

確実に押している。

フェンリルは防戦一方だった。

神楽が攻撃する。

EVEが追撃する。

二人の攻撃は噛み合っていた。

まるで長年共に戦ってきた相棒のように。

だが。

その時だった。

ガアアアアアア……

フェンリルが低く唸る。

赤い双眼。

その瞳が不気味に光った。

EVEが僅かに反応する。

『行動パターン変化を確認』

神楽も違和感を覚えた。

「……何?」

次の瞬間。

神楽が飛び込む。

いつも通り。

黒雷による牽制。

そのはずだった。

だが。フェンリルは避けた。

「っ!?」

神楽の目が見開く。

今までなら確実に当たっていた。

なのに。

最小限の動きで回避した。

さらに。

EVEの砲撃。

フェンリルが横へ跳ぶ。

回避。完全に読んでいた。

『フェンリルが戦闘データを学習している?』

EVEが告げる。

その瞬間

フェンリルが消えた。

神楽の眼前。

巨大な爪が迫る。

神楽が刀で受ける。

だが。吹き飛ばされる。

「神楽!!」

悠人が叫ぶ。神楽は廃ビルへ激突する。

壁が崩壊した。

フェンリルが一歩前へ出る。ドシン。

フェンリルが笑っているように見えた。




EVEが即座に援護。

エネルギー砲だがまるで来る場所が分かっているかのように避ける。

『回避率上昇、学習速度異常、予測精度急上昇』

EVEの声に初めて焦りが混じる。

フェンリルの赤い双眼。

その視線が神楽とEVEを順番に見た。

まるで。獲物の癖を理解した狩人のように。

神楽が血を拭う。

「最悪ね……」

刀を握り直す。

EVEも構える。

『戦況修正勝率再計算』

数秒後。

EVEが答えを出した。

『勝率、62%から17%へ低下』

悠人の背筋が凍った。さっきまで勝っていた。

確かに勝っていたはずなのに。

フェンリルが一歩前へ出る。ドシン。

フェンリルが笑っているように見えた。

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