第9話 おばあちゃんの手紙と三百年の秘密
藤夏は震える手で封を切った。
中には二通の手紙が入っている。
最初に手に取ったのは、藤子からの手紙だった。
懐かしい筆跡が、ゆっくりと心に沁みていく。
「愛する藤夏へ。」
この屋敷を継いでくれてありがとう。
きっと今頃、あなたはパニックになっているわね。
目に浮かぶわ。
300年前、私たちの先祖・藤吾さんは、異国から来た彼らを助けるためにこの箱を預かりました。
でもね、本当は逆だったのかもしれないと、おばあちゃんは思っているの。
独りぼっちだった藤吾さんを、彼らなりの不器用な優しさで支えたのは、
あの「おかしな住人たち」だったはずよ。
藤夏。
彼らは化け物ではありません。
「少しだけ、今の世界に馴染むのが下手な、遠い親戚」だと思ってあげて。
あなたが彼らとご飯を食べ、時に喧嘩し、笑い合ってくれるなら……
それこそが柊家の本当の財宝なのよ。
追伸:
アーカードさんのトマトジュース、絶対に切らさないようにね。
切らすと、一晩中シクシク泣いて本当にうるさいから。
「……おばあちゃん……」
藤夏は思わず鼻の奥がツンとした。
ふと横を見ると、住人たちが神妙な顔で手紙を覗き込んでいる。
(ヴィクターは美顔スチーマーを当てながらだが)
「……藤子、相変わらず余計なことを書くね」
アーカードは照れくさそうに視線を逸らした。
「ねえ大家さん、お腹空いた。おばあちゃんの手紙に感動したから、お祝いに今日レタス多めのサンドイッチ作ってよ!」
レオが尻尾(のような気配)を振りながら服の裾を引っ張る。
「私の肌が乾燥している。お祝いなら、高級な加湿器をもう一台導入したまえ」
ヴィクターは当然のように要求を重ねる。
藤夏は深く、長いため息をついた。
そして、手紙を大切にポケットへ仕舞うと、キッと三人を見据えた。
「……わかりましたよ!その代わり、今日から家事分担は厳守です!アーカード、床のトマトのシミを拭く!レオ、庭の穴掘りは禁止!ヴィクター、鏡の前を占領しない!」
「えぇーっ、藤夏は厳しい!」
「美の追求に制限をかけるとは……暴挙だ」
「僕、穴掘りしないとストレス溜まるんだけど……」
「それが嫌なら、今すぐ出て行ってください!……まあ、契約上できないんですけどね!」
文句を言い合いながらも、藤夏は台所へ向かった。
窓の外には、5月の爽やかな風が吹き抜けている。
「……全く、大家さんはつらいよ。……おばあちゃん、僕、なんとかやってみるよ」
そう呟いたとき、ふとポケットの中に“もう一通の手紙”が残っていることに気づいた。
だが今は、三人の朝食を作る方が先だ。
(……続きは、あとでゆっくり読もう)
こうして、新米大家・柊藤夏と、三人の「おかしな」住人たちの、騒がしくも温かい共同生活が——
静かに幕を開けた…多分…




