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第7話 家宅捜索と三つの誤解

「大家さん、失礼。庭のミイラ案山子の件ですが、やはり看過できませんな。これは高度な思想的メッセージ……あるいは、何らかの 『隠ぺい工作』 の匂いがする」


 玄関に立つ御成門刑事は、銀縁眼鏡を光らせながら、忌々しいほど真っ白な「家宅捜索令状」を掲げた。


「ひっ、……そうさ、そうさく!?」


 藤夏の心臓が跳ね上がる。

 屋敷の中には、日光に当たれない吸血鬼、換毛期の狼男、そしてパーツが外れる改造人間がいるのだ。


(終わった……今度こそ本当に終わった……!い、いや、諦めたら終わりだ)


「待ってください! 今、中は……その、大掃除中でして!」


「掃除なら我々が手伝いましょう。……鑑識の技術でね」


 御成門刑事は冷徹に告げ、土足同然でずかずかと踏み込んできた。

 藤夏は絶叫に近い声で住人たちの部屋へ先回りする。



 最初の標的はアーカードの部屋。

 厚いカーテンを閉め切った薄暗い洋室。

 そこには、先祖代々受け継がれた巨大な黒い棺桶が鎮座している。

 棺桶の横にはトマトジュースのボトル。


(…あまりにもシュール過ぎる…)


 藤夏は心の中で泣いた。

 御成門刑事は手袋をはめた手で棺の蓋をなぞった。


「……大家さん。これはどう見ても……棺桶では?」


(いや、棺桶以外の何に見えるんだよ……!)


 と、思いつつも必死に誤魔化す。


「い、いえ! それは今、セレブの間で話題の『超・深睡眠カプセル』 です!重力と光を遮断して、磁気の力で血行を良くする最新家電ですよ!ほら、彼は極度の貧血ですから!」


「ほう……磁気療法。この曲線……人体工学に基づいている……実に興味深い」


(曲線で納得するなよ!!)


「ん? このボトルは?」


「そ、それは……鉄分配合の特注ネクターです!」


「なるほど。ストイックな健康オタクですな。感服した」


 棺の中でアーカードが震えているのが、藤夏には分かった。



 次に向かったのはレオの部屋。

 壁一面の書架とライディングデスク。

 落ち着いた雰囲気の書斎がレオの部屋だった。

 そこには換毛期で抜け落ちた大量の獣毛と、マンモスの大腿骨のような巨大な骨が転がっている。


(なんてミスマッチなんだよ…コロコロで抜け毛の掃除しろよ…)


「……大家さん。この大量の毛、そしてこの骨。ここで何か大型の猛獣を飼っているのでは?」


(猛獣はいるけど……違う……!)


「あ、あ〜! それは彼の趣味の 『フェルト手芸』 です!自分で毛を紡いでラグを作ってるんですよ!骨は……その、カルシウムを眺めて精神を安定させるボーン・セラピー です!」


「ボーン・セラピー! 最新のメンタルケアですな。メモしておこう」


 ”そんなセラピー、聞いたことねえわ”とツッコミたいと藤夏は思った。

 レオは窓際で「手芸に没頭するフリ」をしながら、尻尾があるかのように腰を揺らし、必死で遠吠えを飲み込んでいた。




 最後はヴィクターの部屋。

 さすがは自分で美意識が高いというだけはある。

 重厚感がありながらも優雅なヨーロッパ貴族の部屋だった。

 なのに、

 机の上には、脱ぎ捨てられた 「右腕の予備パーツ」 が置かれていた。


「なっ!? 大家さん! 机の上に 『人間の右腕』 が!!」


「……デッサン人形です!!」


 藤夏は喉が千切れるほど叫んだ。


「彼はイケメンすぎて自分の造形にこだわりがあるから、特殊な実物大モデルを特注してるんです!人肌暖房機能付きの最高級品ですよ!」


「なんと……美の求道者か。美とは常に“予備”を持つこと……深い……(感心)」


(深くない!!)


 ヴィクターは鏡の前でポーズを決めながら、「私の美は永遠だ」と小声で呟いていた。




「大家さん、失礼しました。ここは事件現場などではなく、『最新の健康法と美学を追求する、意識高い系シェアハウス』だったわけですな。素晴らしい精進ぶりだ」


 御成門刑事は満足げに敬礼し、帰っていった。

 玄関の鍵を閉めた瞬間、藤夏はその場に崩れ落ちた。


「……死ぬ……。今度こそ寿命が10年縮まった……」


「大家くーん、今の刑事さん、今日もいい匂いしたね。高級ポマードだよ、あれ。

 あ、お腹空いた。ボーン・セラピーの骨、食べていい?」


「……好きにしろよ……」


 そうつぶやくと藤夏は白目を剥いた。



 その様子を庭の木陰から双眼鏡で覗いていた鮫島は、戦慄に震えていた。


(バカな……!あれほど決定的な証拠(棺桶・毛・腕)を見ておきながら、あの刑事、全部“健康法”としてメモしている……!?)


 茫然とする鮫島。


(……もしや、柊家は警察のトップどころか、国家レベルの組織を完全に抱き込んでいるのか……!?恐ろしい……恐ろしすぎる一族だ……!)


 そして、その鮫島の恐怖は、「そこまでして守る財宝とは何か」という狂気的な欲望へ変わっていったのだった。





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