6. お茶会は茶が美味けりゃそれでよし
天気の良いある日、クルアハはメンドクセーと思いながら、二人っきりのお茶会の席に座っていた。これも仕事と言い聞かせながら、笑顔を作っていた。
「クルアハさん、このお茶はシルバーニードルズと言いましてよ。お兄様にいただいたんです」
オホホホと目の前の貴婦人は上品に笑っている。緩く巻かれたワインレッドの髪と大きな緑の瞳が可愛らしい彼女はブランシュ王女、団長であるレヴィアンの妻となる人だ。20歳ながら完璧な貴婦人として名高く、父王も兄の王太子も目に入れても痛くないほどに可愛がっている。そんなブランシュ姫はレヴィアンにゾッコンらしい。ブランシュの趣味がどうかしているかレヴィアンが分厚い猫を被ったのだろうとクルアハは思っている。
レヴィアンがブランシュを愛してるかどうかはどーでもいいが、王の愛娘という理由で大切にはするのだろう。ブランシュとレヴィアン、絵に描いたような素敵な夫婦になるに違いないとクルアハは空々しく思った。
「とても美味しいですね。スッキリした味わいで素敵な香りがします」
クルアハは勧められた茶を口に運び、テキトーな感想を述べた。クルアハは王の愛娘、そして上司の婚約者であるブランシュが苦手だった。品定めをされているような嫌われているような気さえして距離感を測りかねている。
別に、レヴィアンがブランシュと結婚することに異論はない。ただ、ブランシュの持つ気取った雰囲気が苦手なだけだ。断じて嫌いなわけではない。猫を被った時のリリーと少し似ているかもしれないとクルアハは知己を思い出し、心を和ませた。
「……クルアハさんは繊細な味覚をお持ちなのね」
「ブランシュ様にお褒めいただけるとは光栄です」
諸々の事情を鑑みて、クルアハはブランシュが苦手とはいえあからさまに邪険には扱えない。何とか笑顔でお茶会をやり過ごすしかないとクルアハは心に忍耐の文字を浮かべて、世間話に付き合った。悪い人ではない。いざとなれば目の古傷が痛みますとでも言えばお茶会強制終了にできんだろと案外美味しいお茶を口に運んだ。
「デュドネとはいかがお過ごしですの?仲睦まじいと聞きましたわ」
「そんな噂がお耳に届いているとはお恥ずかしい……」
クルアハは照れたように頭を手にやった。心の内は面倒だああ面倒だ面倒だであるが、一切顔に出ていない。心を律する騎士の鏡である。
「なれど、式は執り行わないのね」
「……ええ、孤児院を支援したいという私の我儘をデュドネ様は聞いてくださりました」
デュドネとクルアハの結婚式を行わない理由は式の費用を孤児院への支援に回したことになっている。美談だとかなり評判の良い理由だ。しかし、実際は、二人してやりたくないという思いが一致したからだ。まあ嘘はついていない、実際に孤児院に支援はしたからいいだろうとデュドネとクルアハは思っている。
「本当は?」
「え?」
ブランシュは完璧な貴婦人の仮面から無邪気さを覗かせた。
「わたくしとデュドネは幼馴染のような関係ですの。ですから、わかります。本当はデュドネが結婚式をしたくないと言い張ったのではなくて?」
いつになくブランシュが鋭い目をしている。詮索されるのは嫌いだとクルアハはただでさえだるいお茶会がさらに煩わしくなった。
「ブランシュ様は鶏と卵、どちらが先に存在したと思われますか?」
「……何の話ですの?」
ブランシュはクルアハが何を言いたいのか飲み込めないように首を傾げた。ブランシュが知ることはないが、クルアハはよくわからないけどなんか深そうなことを言っている雰囲気を出してごまかす特技があった。
「私はそんなことどうでもいいと思いますねぇ」
お茶美味しかったですとか何とか言ってお茶会から脱出しようとしたクルアハだが、突然何かに呼ばれたような感覚がした。えいやとその感覚に身を任せると、場所が移り変わった。そこは魔法省にあるデュドネの研究室で、目の前には目を爛々と輝かせたデュドネがいた。
お茶会には目を丸くさせた後、困ったような顔で上品に笑うブランシュ姫が残された。




