4. お手軽重視
団長であるレヴィアンに夫婦仲をご指摘いただいた一週間後、クルアハはデュドネのいる魔法省に足を運んだ。雰囲気のある受付でソレイユ公にお会いしたいと伝えると、そっち行ってピュッと右に曲がって、ギュギュギュッとしばらく歩いて突き当たりをギャンッと右に曲がって、すんって真っ直ぐ行けば着くと案内された。クルアハは言われた通りに向かった。
「えっと、このまますんっだよなぁ」
「誰だ」
真っ直ぐ行った先の突き当たりの扉から見覚えのある男が突然ぬっと現れた。どうやらそこがデュドネの仕事場らしい。
「こんにちは、ソレイユ公、クルアハです。夫婦仲の件で相談があって来ました」
クルアハは驚いた素振りを見せることなく、明るく用件を伝えた。
「……僕に歩み寄れって?」
「うちの団長に夫婦仲が悪いとみんなが噂してると言われましてね」
「だから?」
「どうやら何と国王陛下も案じているらしく、面倒なご命令が出る前に傍目から見たラブラブ度を上げるために手を打ちたいんですよ」
「……なるほど」
クルアハはデュドネに上手く面倒事になりそうだぞという予感を理解させることができて、安堵した。恐らく、デュドネの方でも似たようなことを言われているのだろう。
「話が早くて助かります」
「……皮肉か?」
「いいえ、まさか。貴族の大半は平民出身の私の話を頭ごなしに否定しようとします。あなたはそうじゃないので、ありがたい」
デュドネの信じていなさそうな顔にクルアハは事実を話した。おべっかじゃないとわかってもらいたかった。
「……話が早いと思ったのは僕の方だ」
「はぁ……」
「夫婦生活を営む気はないという提案に動揺もせず、即座に了承するとは思わなかった」
「無理強いしても惨めなだけですからね」
クルアハは顔が良いものには自由であってほしいという歪な願いがあるが、そもそも、人に無理な選択を強いることは大嫌いだった。
「あれから音沙汰ないとも思わなかった」
「公はお忙しいようですから」
「……僕はよく変わり者と言われるがあなたもなかなかだ」
ふっとデュドネの顔がやわらいだ。クルアハはいい顔が見れたと喜んだ。険しい顔が緩む落差が大きければ大きいほど趣があるのだ。
「ふふふ、私は単純明快ですよ」
クルアハは自身を変わり者とは思っていない。周囲にもっと変わり者がたくさんいるからだ。特に、我らが団長のレヴィアンの方がよっぽどだと思っている。戦場において、レヴィアンが実行する作戦は勝つためだけのものだった。奇襲作戦をはじめとして、貴族らしい誇りや見栄、戦場での固定観念から脱却したものだった。クルアハでさえ、本気かよと思う瞬間が多々あった。
「では、夫婦仲を良好に見せるための手なんですけど、ひとまず、私からはこちらを」
クルアハはポケットから二つの指輪を取り出し、自分の手のひらに乗せた。
「愛妻家の部下に聞いたところ、ラブラブ夫婦は指輪を贈るそうです。指輪は人の目に付きやすい。よかったら付けてください。それで、誰から贈られたのか聞かれた際に私の名前をじゃんじゃん出してください」
愛妻家の部下もクルアハの周りにいる愛すべき変人の一人である。
「わかった。二つあるのはなぜだ?」
見た目は二つともデュドネの黒い瞳に合わせたような黒曜石があつらえられている。
「お好きな方を選んでください。一つはタネも仕掛けもない指輪です。もう一つはいろいろ仕込みました。……ちと凝り過ぎましてね」
指輪に魔法を仕込んだら面白いかなと思ったクルアハは魔法に精通しているレヴィアンに教えてもらっていろいろやった。そして、なかなか面白いと思ったクルアハは少々やり過ぎてしまった。ハマると止められなくなってしまう癖がクルアハにはあった。
「僕相手に自作の魔道具を贈る人間は初めてだ……」
デュドネは興味深そうにいろいろ仕込んだ方の指輪を手に取った。
「素人ながら3つほど仕込みました。1つ目は、魔力の貯蔵の役割。……公は魔力量が多いので無用かもしれませんね。2つ目は、装着者にちょっとした攻撃が及ぶと防御魔法が展開されます。3つ目は、指輪に気合を入れると私が出現します」
「あなたが……?」
「ええ」
「どうして……?」
「ラブラブ度アップと防犯のためです。こちらにするなら、妻で騎士団最強がすぐ呼べることもじゃんじゃん話してくださいね」
デュドネは指輪とクルアハを交互に見ながら熟考した。
「……こちらの指輪にしよう」
デュドネはいろいろ仕込まれた方の指輪をつけた。クルアハは苦労が報われたと息を吐いた。
「では、ひと月後に効果の程を聞きに参ります」
クルアハはタネも仕掛けもない指輪を持って帰ろうとした。
「待て。僕も指輪にいろいろ仕込むから……、それをあなたがつけてくれ」
デュドネはクルアハが持ってきた無加工の指輪を手に取った。
「……いいんですか?」
「もらってばかりでは座りが悪い。……それに、指輪を贈り合う方がラブラブ度は上がるだろう」
「それもそうですねぇ。ふふふ、楽しみにしています」
クルアハはデュドネが意外に乗り気なことに驚いた。
デュドネの魔道具の腕前は天才、異才の言葉に尽きるとの噂だ。そして、クルアハ達騎士団をはじめとして軍部の依頼は受け付けないらしい。そのため、クルアハはデュドネの魔道具は馴染みがない。楽しみだなぁと足取り軽く魔法省の廊下をクルアハは歩いた。
デュドネは雲のように軽やかな背中を見送った後、難しい顔で指輪を眺めた。




