30. 後ろ目痛い
クルアハとジョルジュが渋い顔でデュドネの元にやって来た。
「まだざざっとしか見れてない」
レヴィアンを傷付けた爆発物の部品をデュドネはクルアハに見せた。
「……何かわかりそう?」
「魔道具ということくらいしか。もう少し詳しく見ないとわからない。ただ、こんなもの誰でもできる。だから、誰が使ったのか特定は難しいかもしれない」
「汎用性の高い魔道具を悪用したとは悪どいなぁ……」
恐らく魔道具から犯人がわかるものは出ないだろうなとクルアハの勘が囁いた。この手の勘はあたるものだ。
「……壊すための道具なのにこんなに便利でいいのかな」
デュドネは苦々しく言った。
「これが役に立つ時がある。例えば、鉱山。大きな障害物を壊して進めるとかね。……畢竟、道具は使う奴次第だよ」
クルアハは落ち着いた笑みを浮かべた。
「レヴィアンが誰かにとっては障害物だと?」
デュドネはクルアハの意図を伺うように右目を見た。
「出る杭は打たれるという奴だろうな、フフッ」
「さすがに笑みを表に出さないでください。暗殺未遂ですよ」
ジョルジュが眉を顰めてクルアハを宥めた。
「悪い。アイツも随分お偉くなったもんだなと思って……」
言えば言うほどダメな感じになっているとジョルジュは額に手を置いた。クルアハはその様子を見てこりゃダメだと話を変えることにした。
「ジョルジュ、下手人の聴取を代わってこい。何が何でも吐かせろ。……あと、団長サマを恨んでいそうな人間のリストアップ」
「聴取はお安い御用ですケド、団長恨んでるヤツはたくさんいて手間ですよ」
「頑張れ。……ついでにエドモンを呼んでくれ」
「かしこまりました」
ジョルジュはげんなりしながらその場を去った。その気安いやり取りにデュドネの背中がじんわり冷や汗で濡れた。こんな事態はよくあることなのだろうか。
それからすぐにこちらに向かって手を振りながら走る男が現れた。
「隊長!たいちょ~う!!」
「……元気だな」
第二部隊隊長・エドモンである。ちなみに、騎士団随一の愛妻家だ。第二部隊は救護担当であるため、治癒魔法が優れたクルアハは名誉隊長としてエドモンは崇めている。当の本人のクルアハはいい顔をしていない。
「貴殿がソレイユ公ですか。お噂はかねがね!」
「どのような噂だ」
デュドネは何だと眉間に皺を寄せ、身体をかたくした。
「もちろん、我らの英雄とのラブラブ話ですよ!」
「……そうか」
エドモンの言葉にデュドネは一気にガードを緩めた。
「ここひと月の団長の動きを知りたい」
「かしこまりました」
エドモンが言うには、レヴィアンはここひと月、ロシェクールと癒着し汚職を働いていた者を片っ端から吊し上げていた。そして、その余波で従来の軍務大臣が辞任した後、王弟が軍務大臣をやると名乗りを上げた。レヴィアンはその補佐もとい仕事をぶん投げられることが多いそうだ。その流れで王弟の息子シャルル殿下のお守りも押し付けられたらしい。
「後で王弟の息子の様子を見に行く」
「近くにあるステキなお宿におります」
救護担当のため、庇われた王弟の息子の居場所を管理しているのはエドモンだろうと考えたが、アタリだったらしい。
「王弟殿下の軍務大臣サマもいますよ。すっ飛んできてここの宿にしろこれを用意しろとうるさく言われました」
呆れたようにエドモンは肩をすくめた。
「ねぇ、隊長。なぜ軍務大臣に団長がならないんですかね」
「……前例がない」
レヴィアンが軍務大臣になれない理由は騎士団長から軍務大臣になった前例がないこと、家柄的に厳しいのではないかという意見があったからだ。
「でも、みんな望んでいますよ」
あなたが言うかとエドモンは苦笑いを浮かべた。戦争終結の立役者、ランスの英雄達が高みに座ることを多くの人が望んでいる。
「それはあまり言わない方が良い」
「そして、空いた団長の席には隊長が座ってほしいものです」
「それはもっと前例がないな」
「でも、やはりみんな望んでいますよ」
エドモンはちょっとタバコ吸ってきますと言って逃げた。隊長に、副団長に、そして、団長になってほしいとクルアハに言うといつもクルアハは嫌だなぁと困った顔をする。エドモンはそれを見たくなかった。
「クルアハは団長になりたくないの?」
デュドネはエドモンと話すクルアハをずっと見ていた。
「ガラじゃない」
副団長も団長も、そもそも組織に属すること自体、クルアハの性質に適したことではなかった。
「レヴィアンが大臣にならないのは、だからロシェクールを引き摺り下ろしたのかと言われることを避けるため。王弟はつなぎなのかな……」
「ソレイユ公爵は政治もお出来になるとは知らなんだ」
「今、一番いいタイミングはブランシュ姫の出産祝いだな。次点は戦争終結記念日。そこまで急ぐ必要はないかもしれないが……」
クルアハの珍しい皮肉を無視してデュドネは喋り続けた。
「この爆発物が壊した障害は何だ?」
「魔道具の解析には感謝しているが、これは騎士団の問題だ。……ソレイユ公」
「弁えろと?」
デュドネがクルアハの目を見続ける。
「害を被らせるわけにはいかない」
「僕は君の夫なのに?」
デュドネが穴が開くほどにクルアハを見つめる。
「…………そうだよ」
クルアハはデュドネの視線から逃げるように立ち去った。
デュドネは一度も振り返らない背中を見ていた。




