25. 絨毯と魔道具のマリアージュ
デュドネがお城にいると、待つ間もなく、ジョルジュはパトリアに戻ってきた。
「騎士団を連れてきましたー」
筆頭と称される花形の第一部隊と治療専門の第二部隊をジョルジュはにこやかな笑顔で率いている。
「王命は……」
「もっちろんありますよ」
「手際が良すぎるな」
デュドネは呆れたように言った。ジョルジュは移動時間も含めて一日程で王命をもぎ取り、騎士団を連れてきた。誰がかは不明だが、元から準備をしていたのではないかという予想が頭をよぎった。
「しかし、物々しい」
疑問は一旦脇に置き、デュドネは二つの部隊を引き連れたジョルジュに改めて感心した。
「そりゃあ副団長探すためですから。とは言ってもロシェクールに勘付かれるでしょうから、もう作戦開始しています」
部隊の一部は絨毯屋とロシェクールを監視しているらしい。動きが早いことだ。
「そうか。では、僕はロシェクールの屋敷に乗り込む」
「イエイエ、なぜですか。旦那は待機ですよ」
「ソレイユ公爵が行くとロシェクールの場所が確実になる」
ソレイユ公爵またの名を魔法省の異端児。そのような大物が屋敷に来ればロシェクールもさすがに直々に顔を出すだろう。否、公爵を出迎えるためにロシェクール侯爵は動かざるを得ない。ロシェクールを探し回る手間が省け、逃亡のおそれを減らすことができるとデュドネは暗に言った。
「…………おっしゃることはわかります」
ジョルジュは副団長の夫ということとソレイユ公爵の有用を天秤にかけた。デュドネを囮に使う作戦案もなかったわけではない。ジョルジュはデュドネの覚悟を感じた。
「わかりました。旦那はロシェクールを引きつけてください。ですが、決して無理はしないでくださいね!」
決断したジョルジュはデュドネに願った。ジョルジュは副団長探しの旅でデュドネの人となりが粗方わかった。人付き合いに関しては不器用だがとても優しい。そして、血飛沫上がる戦場とは縁遠い人だ。
クルアハはデュドネのような人が傷つくことを一等嫌うとジョルジュはしっていた。
作戦通り、デュドネはロシェクールの屋敷に行き、難なく応接間に通された。デュドネが居心地のいいソファに飽きてきた頃、一人の老人が壮健な男を伴って現れた。
「これはこれはソレイユ公爵、あの噂に名高い……」
老人は存外に愛想の良い顔をした。あのロシェクールと知らなければ好々爺風である。ロシェクールの所業を垣間見たデュドネにとっては寒気がする笑みだった。
「近くまで来たゆえ挨拶に来た」
デュドネは噂に基づいて小さめではあるが、絨毯を持参した。屋敷に入る際にしつこく検査をされたが、絨毯は特にタネも仕掛けもない、何の変哲もない代物である。本当だ。魔道具なんか入っていない。
「これはこれは……。お心遣いありがとうございます」
「絨毯が好きという噂を耳にした」
「……左様ですか。この品はとても気に入りましたが、儂は絨毯が特別好きということはありませんな」
「そうか。噂はあてにならん」
「ソレイユ公爵はなぜここに?特別なご用事でもなければ姿を見せまい。人嫌いで有名ですぞ」
「結婚すると人は変わるものだ」
「……噂はあてにならぬものですなぁ」
デュドネはロシェクールの老獪さとネチネチした会話運びが嫌になり、早速本題に入ることにした。根がせっかちな人なのだ。
「近頃、この辺りで血生臭い噂がある。俗に言う神隠しだ。何か知らないか」
「……あてにならぬ噂では私が知っていることになっていますねぇ。失礼な話です」
「僕の妻が動いている。心当たりはないか」
ロシェクールはわずかに目を見張った。
「たしか奥方は……、戦争の英雄とはいえ、平民でしたね。儂は平民の区別が付きませんので分かりかねますなぁ」
「貴様……!」
デュドネは居心地のいいソファから勢いよく立ち上がった。ロシェクールのそばにいるガタイのいい男が牽制するようにデュドネに一歩を足を踏み出した。
「世を知らぬ公爵。無礼ですぞ、口の聞き方には気をつけるが良い」
それを偉そうにロシェクールは制した。場所の支配権をロシェクールは握っていないと気が済まないらしい。愚かしい振る舞いだとデュドネは嘲笑した。
「何かおかしなことでも」
ロシェクールはやや固い声でデュドネを見据えた。どうやら見下されることは我慢ならないらしい。
「いや何、無礼者はどちらかわからないと思っただけだ」
「どのような意味でしょう」
「ロシェクール侯爵は僕より爵位は下だろう。ならば、僕に敬意を払わなければならない。……同じこうしゃくと呼ばれて勘違いしているらしい」
「……よく口が回るようで」
ロシェクールの額に血管が浮かんだ。余程、身分がコンプレックスなのだろう。
「思い出しました。あれがランスの悪魔か……。なるほどなるほど」
「なんだ?」
「いやなに、通りで血を飲むと力が湧くわけだ。他のとは訳違いましたな」
よだれを垂らしたロシェクールは失礼とハンカチで口元を拭いた。
「あの青い瞳も悪くない。……お見せしましょうか」
「……ふざけるな」
デュドネはロシェクールの頬を拳で殴った。あまりのことにあの魔法省の異端児が魔法で細工をすることを忘れていた。
「無礼な……、誰かこいつを殺せェ!!!」
殴り慣れてはいないが渾身の力が籠った拳によろめき、膝をついたロシェクールは喚いた。
「こいつってこれ?」
聞き慣れた声と共に隣に控えていたロシェクールの従者が血を吹き出し倒れた。
「貴様……!」
従者の血飛沫を浴びながら、ロシェクールはわなわなと見上げた。
「無事か、デュドネ」
「クルアハ!」
デュドネは万感の思いで名前を叫んだ。




