23. 姿は俗性を現す
ロシェクールが関与している証拠を探すべくデュドネは一人でクルアハの育った孤児院へと向かった。クルアハならば何か残しているのではないかと思ったからだ。
「どちら様でしょうか」
孤児院に足を踏み入れると黒髪の男が警戒するように声を掛けた。
「デュドネ・ド・ソレイユ。クルアハの夫だ」
「……あん人、ちゃんと結婚できたんですね」
「モラービア侯爵夫人にも言われたな」
「そりゃあ、……あの人は自分の特別を真っ当に大事にすることはできないんで」
黒髪の男はため息混じりに言った。
「ああ、失礼しました。自己紹介が遅れちまいましたね。俺はアルジャン。この孤児院の責任者です。何か御用ですか?」
黒髪の男ことアルジャンはにこやかに自己紹介をした。
「クルアハがここに来ていないかと思ってな。ここは特別だろうから」
デュドネは小綺麗な孤児院を見渡した。所々にしか生えていない雑草、小さな農園、庭の中央にある若木、そして、あたたかみのある建物。デュドネはいいところだなとクルアハの育ったところを見て胸がじ~んとした。
「時々、金やら本やらが匿名希望で届きますけど、本人は顔も見せちゃあいませんよ。……それに、ここは特別な場所というよりは、育ったから特別にしなければならないと思っているだけですから」
アルジャンはクルアハにやや辛辣気味である。
「それは考えすぎでは?」
「どうでしょうね……。あなたも同じ思いをされてませんか?」
「…………」
デュドネは黙りこくった。図星だったからだ。クルアハは自分を夫だから大事にしている節があるとデュドネは感じている。
「では、クルアハはどこにいると思う?」
「……どーせまた無茶してるんですよ」
アルジャンは確信を持って答えていた。
「また?」
「ええ。俺よりもリリーさん……、モラービア侯爵夫人様の方がご存知だと思いますけど」
仕方なさそうにまたは諦めたようにアルジャンは肩をすくめた。
「この孤児院、綺麗でしょう」
「うん。よく手入れされている」
「そりゃあどうも。でも、昔はもっと汚かったんです。施設の大人が国から配られたはした金を懐に入れていたんで、孤児達の扱いは酷いものでした」
「……痛ましいな」
「大人たちは俺らに暴力を振るいました。教育とかお題目をつけてね。実情はもちろん憂さ晴らしでしたが。いつも俺達の怪我はあの人が治してくれました。隠そうとしても目敏く気付くんです。……ある時から、あの人の姿を見なくなり、大人達の暴力の頻度が減りました」
「何があった?」
「あの人が憂さ晴らしの代わりになっていたんです。リリーさんが領主と結婚して大人達から救われるまで、どんな怪我でも治せるおもちゃとして扱われてました……」
「そうまでして、君達を護りたかったんだな」
「いや、それは違う」
アルジャンはまるで懺悔するようにデュドネを見た。
「……あの人は俺達が大事だから護ったんじゃない。自分が育ったところだから大事にした、だってそれは善いことだからって言ってた。馬鹿みたいに空っぽな理由だけどありゃあ本心だ」
「君達がクルアハの大事にしたい、護りたかった孤児院の範囲内なのは変わらない。大事にされたと思えばいい」
「ものは言いようですねェ。俺はあの人が傷だらけで孤児院を大事にしていたことがどうにも居心地悪くて……」
「それはクルアハが心配だからだろう。ならば、自分が大事にしたいものを大事にすればいい。……クルアハは善いことが巡るのは善だと言いそうだ」
「あんた、クルアハと仲良くやってけそーだな……」
「そうかな」
「俺はあの人が強過ぎて心配するなんて気持ち、忘れっちまったよ」
自嘲気味にアルジャンは言った。似たようなことを聞いたなとデュドネはデジャヴを感じた。
「ああ、そういやクルアハは見ませんでしたけど、いつだっけな、逃げてきたガキなら引き取りましたよ。……会います?」
アルジャンは気を取り直したように訳知り顔でデュドネを見た。
「逃げてきたって、それはどこから……」
良い予感がデュドネの中を駆け巡った。
「そりゃあ、ロシェクールのジジイからですよ」
「その子は元気か?」
「……命に別条はありません。なんか逃がしてくれた金髪の女がいたらしいですよ」
「ここは大丈夫か?狙われたり……」
「だいじょぶですよ。俺が拾いモンするなんて珍しい話じゃねーんで」
ワハハハハとアルジャンは朗らかに笑った。
「それより、クルアハのこと頼みました。見つかったら伝えてください。……一回くらい顔を出してくれって。戦争の英雄をもてなす余裕はありませんが、孤児院の先輩を歓迎することはできんで。では、よろしくお願いしますね」
アルジャンはそう言うとペコリとお辞儀をした。公爵のデュドネから見ても綺麗な所作だった。
クルアハが育った孤児院はいいところになったのだなと胸がじ~んとした。




