22. 副団長探し
ジョルジュはモラービア侯爵から仕入れた情報をデュドネに伝えた。
曰く、ここ半年ほど10才前後の子供が行方不明になっている。性別、見た目、境遇等、年齢以外に共通点は見当たらず。誘拐の実行犯を何度か捕まえたはいいものの、聴取を始めると、皆一様にあの方が関わっている、恐ろしいから話せないと口をつぐむ。そして、しばらくするとその実行犯は自害または殺害されている。よって、主犯に対する手がかりはゼロ。また、15年戦争に関連する混乱もあって捜査は捗っていない。
「根が深いな」
「ええ。ですから、我々はまず副団長探しといきましょう」
というわけで、デュドネとジョルジュは大きな酒場に向かった。
「すみませーん!金髪で片目の女性が来ませんでしたかー?」
ジョルジュは気さくに声をかけた。自分に足りないのはこーゆー能力なのだろうなとデュドネは思った。
「ああ、来たな、覚えてるさ。1週間くらい前かな。アレ2週間くらいだっけ、その間かな……。まあ、えれー大酒飲みでびっくらこいたぜ」
「その人です!探してるんですよー」
「本当か?これ飲んでみろ」
「エ?」
ジョルジュは緑の瞳を丸くした。
「うわばみのダチはうわばみに決まってんだろ!」
ガハハと酒場の客がジョルジュの肩を組んだ。完全にお酒の押し付けだ。何事もそうだが、特に具合が悪くなり、最悪死亡する可能性があるお酒の無理強いは絶対ダメだ。
「これでいいな」
デュドネはヤケクソでジョッキを掴み、一気に飲んだ。もちろんアルコール分解魔法は使っている。対策なしの一気飲みは正気の沙汰ではない。
「いい飲みっぷりだね!」
やんややんやと酒場が盛り上がった。
「旦那……、すんません。俺、酒飲めなくて……」
騒ぎの中、ジョルジュは申し訳なさそうに俯いた。アルコール分解魔法も少しは飲めなければ使えないのだ。
「僕は飲める。だから、情報収集は頼む」
お酒は飲める人が飲めばいい。情報収集は得意な人がやればいい。適材適所というやつだ。
「旦那ぁ……」
ジョルジュは目を輝かせてデュドネを見上げた。
「ほら、もういっぱい!」
デュドネが次々と飲まされている間、ジョルジュは卒なく酒場のマスターに声を掛けた。
「大酒飲みの人についてナンカ知らなーい?」
「お知り合いのことだが、それっきり見てねェからな」
「何でもいいんだ」
「……ああ、近頃ガキがいなくなってんだろ?それについてちと気にしてるようだったな」
「ヘェ~」
「最初は、レートーの馬鹿共んとこが声掛けていなくなった。だから、オレらの間じゃ全部アイツらがやったにちげーねぇって話したら、興味深そうにしてたな」
「レートーって誰さ?」
「悪徳絨毯商人兄妹さ。……ここいらではちょいと有名な奴らだ」
「悪徳の種類を聞いてもイイ?」
「戦争に乗じて一代で成り上がったケチ臭ェ奴らでね。売り物も絨毯に限らず、ヤクやら武器やらキナ臭ェもんまで手広くやってるらしーのよ!……悪徳だろ?」
「悪徳だね!」
ジョルジュはとりあえず酒場はここまでだなと酒を浴びせられているデュドネに声をかけ、次へと向かった。一ヶ所で情報を集め過ぎるのはあまり良くない。
次は娼館に行こうと言うジョルジュに大分疲れたデュドネは大人しくついて行った。
「長めの金髪で片目の大柄な女性を見ませんでしたかー?覇気がなくて、本当に覇気がなくて、心底覇気がない人です」
客引きの男達にジョルジュは話しかけた。
「オイ、髪の長い女だって」
「さあ、ここにゃ沢山いるからねェ。ワルイなあ他をあたってくれよ」
「アンタ、あのこのなんなのさ」
ここはヨから始まる港町ではないはずだ。
「んじゃ、神隠しについては?」
埒が開かないとジョルジュは聞き方を変えた。
「……アンタら、ここに来るようなガラじゃねェだろ」
「マァ、俺らが探してる人はここに来るガラなんでね」
「……女でか」
「情報集めは酒場か娼館かって人なんだ」
「そりゃあ、的を得ている」
「的は射るもんだ、馬鹿」
「神隠しはレートーのアホ共と懇ろなロシェクールっつー貴族がやってんだろう。それが最近の噂さ」
「……随分大物の名が出てきたな」
デュドネがひょいっと片眉を上げた。ジョルジュはだから副団長自らが動いたのかと納得した。
ロシェクールというとあまりいい評判を聞かない侯爵だ。侯爵の中では特に家柄も良いわけではなく、人望があるわけではない。しかし、世渡り上手であり、王弟を後ろ盾につけ、ここ3代の軍部大臣と親し~い仲を保ち、誰を大臣にするか決定する時には顔を立てないと面倒らしい。俗に天下の傀儡師と言うらしい。
「だからご領主様も手が出しにくいんじゃねーの」
吐き捨てるように男は言った。そして、金を持ってそうな男を見つけ、いい女の子いますよ!と客引きを再開した。
最後に、ジョルジュとデュドネは武器屋に行った。ジョルジュ曰く、クルアハは街を訪れた必ずと言って良いほど武器屋と酒場に行くそうだ。
「金髪で片目の女性で剣に興味がありそうな人は来ませんでしたか?」
「……知り合いかィ?」
「ええ、探してるんです」
酒場と娼館の騒がしさを考えるとすんなり話が進んでいった。
「……アンタ、名前は?」
「ジョルジュ・ド・アソー」
「子供の頃に飼っていたゴキブリの名前は?」
「ジュリエットちゃん」
「よし、預かりモンがある」
「…………ありがとうございます」
ジョルジュは険しい顔で武器屋から剣を受け取った。
武器屋を出てもジョルジュは難しい顔をしたままだった。
「どうした?」
デュドネは剣を見ながら言った。
「……こりゃ、副団長からの合図です。潜入するからあとはよろしくって意味なんですよ」
どうやら武器屋で合言葉を言ってクルアハの剣を渡される時はそのような意味らしい。
「つまり、ロシェクールのところに行けばクルアハに会えるんだな」
この辺は貴族の別荘が多い。ロシェクール侯爵ならばきっと別荘は持っているだろう。デュドネはそこに行こうと考えていた。
「旦那、お待ちください」
やるべきことが決まったと清々しい顔のデュドネにコイツ正気か?とジョルジュは額に手を置いた。
「ロシェクールが関与している確実な証拠を押さえ、王命で騎士団を介入させます」
「できるのか?」
「はい!」
「……様子を見るくらいは」
「無闇矢鱈に刺激してはなりません」
「…………わかった」
デュドネは渋々頷いた。そして、証拠を押さえればいいのかとデュドネは明日、足を向ける場所を決めた。




