21. 怒ったあなたも素晴らしいと笑うだろう
デュドネとジョルジュは領主が住む立派なお城に行った。デュドネのソレイユ公爵という身分を使えば、約束無しの訪問でもお茶の子さいさいであり、モラービア侯爵夫妻が二人を出迎えた。
「クルアハなら顔を見せました」
モラービア侯爵夫人が快く応対し、答えてくれた。侯爵夫人は目鼻立ちがはっきりとした派手な顔立ちであり、艶やかな紫色の髪が細い首元のアメジストと良く似合っていた。
「アラ、副団長とお知り合いでしたか?」
ジョルジュが不思議そうに侯爵夫人にたずねた。
「同じ孤児院の出身です」
デュドネとジョルジュは顔を見合わせた。初耳である。
「副団長はどのような用件で参りましたか?」
ジョルジュが驚きをわきに置いて、つつがなく話を進めた。
「巷を騒がす神隠しについてでございます。知っていることはないか、孤児院は無事かと聞かれました」
「神隠しについてはこちらも調査をしているが、なかなか進まぬ」
モラービア侯爵が重々しく口を開いた。
「クルアハ殿の足取りは追わせましょう」
「ご協力感謝いたします」
侯爵がこちらに神隠しに関する資料があると言ってジョルジュと共に部屋を出た。
「ソレイユ公爵様」
デュドネもジョルジュと侯爵についていこうかと思っていたところ、侯爵夫人に呼び止められた。
「あなたがクルアハの旦那様なのですね」
「そうだ」
「国王陛下が結びつけたご縁とお聞きしました……」
侯爵夫人は哀しげに目を伏せた。
「たかが政略結婚とでも言いたいのか?」
デュドネは初対面の相手にはとげどげしい姿勢をとってしまう悪癖がある。特に苛立っていると際立って表に出た。クルアハとの初対面の時もそうだった。
「始まりは何であれ、あの子を探してここまで来てしまうなんて、大層愛していらっしゃいますのね」
「…………ああ」
デュドネは侯爵夫人からいやな含みを感じた。こちらの出方を伺うような、品定めをして自分の方が上だと見下そうとしているような不愉快な心地がした。
「公爵様はあの子を探さない方がよかったのかもしれませんわ」
「なぜだ?」
「しらない方が幸せということは星の数ほどありますから」
自分の方がクルアハを知っているとでも言いたいのかとデュドネは苛立った。
「侯爵夫人は今クルアハがどこで何をしているのかご存知のような口ぶりだな」
デュドネの口から嘲りが漏れた。
「私には何もわかりませんが、きっとあの子は神隠しを解決しようとしています。何をしてでも……」
「何をしてでも?」
デュドネは苛立ちを隠さずに侯爵夫人の言葉を鸚鵡返しした。
「ええ、そうです。あの子は無茶ばかりしますから……。きっと、今頃あの子は見ず知らずの誰かのためにボロボロになっていることでしょう」
クルアハをあの子あの子という侯爵夫人に対して、デュドネは心が煮立つような思いがした。
「公爵様も厄介な人を愛しましたね」
「……何が言いたい」
デュドネはついにモラービア侯爵夫人をくわっと睨んだ。クルアハの何がわかるというのかという気持ちと自分の知らないクルアハを知っている腹立たしさがあった。
「あの子は空っぽです。何をされても、何をしても……。あなたがどれだけ愛してもあの子は変わらないでしょう。愛しても無駄です」
「ご忠告どうも、モラービア侯爵夫人」
デュドネはやかましいと言わんばかりに侯爵夫人との会話を切り上げ、広い城の中、デュドネは迷いながらジョルジュの元に向かった。お城の人に聞いてもよかったが、デュドネの人見知りがそれを難しくさせた。やっとのことでジョルジュを見つけると、すでに神隠しの話は終わっていたようで、モラービア侯爵との談笑タイムに入っていた。
「アレマ、なんか怒ってます?」
デュドネの姿に気付いたジョルジュは開口一番にそう言った。
「いやべつに」
デュドネはそっぽを向いた。
否定はしたものの、デュドネはたしかに怒っていた。空っぽのまま、愛しても無駄。クルアハをそんな風に言われてデュドネは腹立たしくて仕方がなかった。もしあの場にクルアハがいたらどうするのか、どう上手く返すのかしりたかった。




