20. ランスの悪魔
レヴィアンのおすすめ通り、デュドネはお洒落な騎士・ジョルジュと共にクルアハの故郷・パトリアに向かった。パトリアの主要都市ルーナまでいろいろ乗り継いでおおよそ丸一日かかる。王都との直線距離のわりに時間がかかるが、これでも昔よりはまだマシらしい。
道中、デュドネと交友を深めようとジョルジュが気を遣って話しかけてきた。
「最近、副団長に変わったことはありませんでしたか?」
「どうだったかな……」
デュドネは最近のクルアハの様子を思い浮かべた。
両親が来てから一ヶ月半、ダリアの花をくれたな、ラーメン屋に行ったな、年を越したなとイベント事は盛りだくさんであった。しかし、通過儀礼とでもいうようにクルアハの態度は味気なかった。照れも緊張もなく、夫婦の定番だからとりあえずやっているのだなということが透けていた。はじまりは仲良し夫婦に見えるようにしようというクルアハの提案にデュドネが乗っただけということもあり、クルアハを責める気持ちや不満は浮かばなかった。ただ、デュドネは寂しかった。今となって、もう少し自分から何かすればよかったという後悔に苛まれている。
デュドネは後悔をわきに置き、何かクルアハの素が見えることはなかったかと懸命に思い返した。
「……そういえば、同じ日の新聞をよく見ていた」
クルアハが新聞といった文書の類に目を通していることは珍しいことであったため、デュドネは印象に残っていた。無表情で何度も新聞を眺めるクルアハからはある種の必死さが感じられた。
「たしか、……ルーナにて神隠しがあったというような」
ルーナとはクルアハの故郷・パトリアの主要都市のひとつだ。デュドネは言いながらこれだなと思った。ジョルジュも聞きながらそれだなと思った。
恐らく、クルアハは故郷の神隠しについて探っているのだ。クルアハならやりそうなことである。
「まずは、領主のモラービア侯爵のとこに寄りましょうか。神隠しの調査が目的なら、副団長は領主様にも話を聞きに行っているかもしれません」
「そうだな。……君から見て変わったことは?」
「ありませんよー。我らに副団長の御心は読めませんので」
「僕にもそうだよ」
デュドネは悲しげに目を伏せた。
「プランタン団長はクルアハの意図を本当につかめていないのか?」
「……残念ながら、我らに団長の御心も読めません」
ジョルジュはエヘヘと困ったように頭を触った。
「……大変な上司達を持ったようだ」
「ですが、命の恩人なので!」
「そうか」
「副団長は俺が何度も死にかけた時に治癒魔法をかけてくれましたし、団長の指揮で俺らは生き残ることができましたから」
「クルアハは瀕死の怪我でも治せるのか……」
「あの方は死んでさえいなければどのような怪我であっても治せますよ。自分の怪我も他人の怪我も……」
治癒魔法は難解である。負った怪我の状態や人の構造を理解した上でどのように治癒魔法を施せばいいか判断し、その通りに実行しなければいけない。
デュドネは団長に治療用の魔道具を頼まれていたが、クルアハがいるならばデュドネは魔道具はいらないのではないかという考えが頭をよぎった。
「代償はなかったのか?」
「魔力消費はかなり激しかったはずです。……俺達には毛ほども見せませんでしたが」
ジョルジュは困った笑みで自身の腹を撫でた。
「心配だな」
デュドネは今では穏やかな顔をしているクルアハが戦場を駆ける姿を思い描き、心を痛めた。膨大な魔力を持つデュドネから見ると、クルアハの魔力量は常人よりは格段に多いが有限であるという評価だ。治療魔法を乱発すると魔力不足から来る何らかのダメージがあるかもしれないとデュドネは考察した。
「あの人を心配ですか……、俺にはできません」
「なぜだ?」
「そうですねェ……」
心底不思議そうなデュドネをジョルジュは感慨深そうに眺めてから口を開いた。
「どんな怪我を負っても戦場を駆け続け、敵将の首をとる。あの血塗れの背中に俺は惚れましたから」
彼の瞳には戦場を駆けるクルアハの勇姿ランスの悪魔が灼きついていた。




