17. 愛とは何かしら
クルアハは初めてデュドネを伴って屋敷に帰った。
執事のミレーに出迎えられ、大広間に行くとデュドネの両親とブランシュがまるで自分の屋敷のようにくつろいでいた。
「あら~、デュドネちゃん」
デュドネママが穏やかな笑みで出迎えた。へえ、ちゃん付けなのかとクルアハは驚いた。
「帰って」
「もう?いやよ~」
「いきなり来るのは勘弁してくれ。忙しいんだ」
「いけず~」
クルアハは母子の会話を尻目になぜがいるブランシュに声をかけることにした。
「ブランシュ様、何のもてなしもできず失礼いたしました。いかがされましたか?」
「……久しぶりにデュドネのご両親にお会いしたかっただけです。気になさらないでください」
「そうでしたか……」
デュドネの両親とはどのような知り合いですか、団長との新婚旅行はどうでしたかなどとクルアハはブランシュと会話を広げようかと思ったが、やめた。だるかったし、ブランシュから話しかけんなオーラをわずかに感じ取ったからだ。気のせいかもしれないが、ブランシュと話さなくていいならいいやとクルアハは麗しい母子のやり取りに浸ることにした。
「ママもパパも心配したのよ~。急に結婚なんて決めたから驚いたわぁ……」
もっともだなとクルアハはデュドネママの言葉に頷いた。
「僕の勝手だろう」
さすがに報告・連絡・相談はしたと思っていたぞとクルアハは驚いた。
「そうね」
勝手でいいのか、放任主義かなとクルアハはデュドネの家族関係の距離感を測り直すことにした。
「それに心配いらないみたい~。あなたが私達以外に魔道具をあげているなんて驚いたわ!」
「別に良いだろう」
反抗期真っ盛りの反応だとクルアハは思った。
「悪いなんて言ってないじゃない♡」
手慣れている、さすがだなとクルアハは微笑ましく思った。
「でも、安心したから他の用が済めば帰るわ~」
「……わかった」
クルアハはデュドネママがすぐに帰ってしまうとわかり、残念に思ったが、今のうちに闇より黒い瞳を楽しもうと開き直った。
「ねぇ、クルアハちゃん、似合ってるでしょ!」
私もちゃん付けかとクルアハは面を食らった。
「もっと似合う服がある」
「あら~♡」
楽しそうなデュドネママと気まずそうなデュドネの顔をクルアハは見比べた。よく似た顔立ちに正反対な表情が浮かんでおり、いとおかしであった。
「……プランタン公爵夫人、馬車までお送りしましょうか」
徐にデュドネはブランシュに声をかけた。
「ありがとう、デュドネ」
そうして、クルアハとデュドネの父、母の三人っきりになった。デュドネは逃げたんだなとさすがのクルアハも気付いた。義両親と自分だけが取り残されると、ちょっと、もとい大分緊張する。クルアハは頑張れ負けるな最善を尽くせと自らを叱咤した。
「クルアハちゃんはドレスに興味ないようね、ごめんなさいね」
デュドネの母がにこやかにクルアハに話しかけた。
「いえ、縁がないだけです」
「引き寄せようともしていないでしょ~」
「……おかげで興味が出ましたよ」
「あら!」
デュドネの母はなんでこんなに楽しそうなのだろう、とても美しいからいいがとクルアハは戸惑った。
「私たちのことはママ、パパって呼んでほしいわ」
「ママ……?」
「キャ~、そうよ~!」
アットホームな家庭にクルアハは怖気付いた。え、いいの?みたいな気持ちが底に漂っている。
「デュドネちゃんはクルアハちゃんにベタ惚れみたいだね」
デュドネママが頬を染め、満足そうにしていると、タイミングを見計らったかのようにデュドネパパが口を開いた。クルアハは、うわ、デュドネパパ、喋った、え、ちゃん付け?今のでどこがそう見えたんだ?と混乱した。クルアハはどんな時でも冷静だが、今は冷静とは真反対の焦燥でいっぱいだった。
「……父であるあなたがおっしゃるならそうなのでしょうね」
「父?」
「……パパ」
そうだとデュドネパパは満足そうににっこり笑った。
「君は?」
「私は大事にしたいと思っています」
「愛してる?」
「……この気持ちが愛なら愛してるってことになりますね」
クルアハはなぜだかデュドネのパパとママの前で嘘やごまかしはしたくなかった。
「では、愛していると言っていいんじゃないか」
「愛とは何でしょうか?」
「ひとつの形としては、大事にしたいと思う心じゃないのかな」
「そうですか……」
「クルアハちゃんにとっては違うの?」
「……わかりません。私に愛は難解ですので」
わからないなりに見様見真似で愛とやらをやってみようと思うが、どうも難しいとクルアハは目を伏せた。自分なんかが大事にしたところでそれは愛になるのだろうか。失敗したとしてもそれは愛なのだろうか。クルアハはぐるぐると坩堝にはまっている。
「そこは我が息子の腕の見せ所という奴だな」
デュドネパパは誇らしそうに笑った。
クルアハは愛や家族についての理解は浅いが、デュドネの家族がとても素晴らしいものであることは身に沁みた。




