18. 焔
一方、デュドネはブランシュと屋敷から馬車までの短い距離を一緒に歩いてきた。ブランシュはデュドネにエスコートされる気はないようで、デュドネの前を堂々と歩いている。頭の上で高く結い上げた髪がゆらゆらと揺れていた。
「なぜ、嘘をついたんですか?」
デュドネは華奢な背中に向かって問い掛けた。デュドネが慣れない見送りの申し出をした理由は自分の両親が煩わしくなり、クルアハに押し付けようと思っただけではない。ブランシュに聞きたいことがあったからだ。
ブランシュがデュドネの両親にクルアハがドレスを着たいと言っていたと伝えた。クルアハはドレスを着たいなんてブランシュに言っていない。では、なぜ、そんな嘘をデュドネの両親に言ったのか。クルアハに慣れないドレスを着させて恥をかかせてやろうと企んだのかもしれないが、デュドネはそれは違うと感じていた。ブランシュは気位の高い人だ。余程のことがない限り、誰かに嫌がらせをする自分を許せるはずがない。
「あら、何の話でしょう……?」
ブランシュはデュドネを一目も見ることなく、はぐらかした。
「僕の両親はクルアハがドレスを着たいと言っているとあなたから聞いたそうです。……どうしてそんな嘘を吐いたのですか?」
「……わたくし達の結婚式の時にクルアハさんはドレス姿ではなかったでしょう。だから、ドレスをお持ちではないと思ったの。それはとても可哀想なことでしょう」
「あの人はそんなことを気にする人間ではありません。ご存知でしょう」
「クルアハさんもドレスに憧れくらいありましょう。わたくしは彼女のためを思っただけです」
「………………」
ブランシュはクルアハのために嘘を吐いたという言い訳を持ち出した。デュドネはこれ以上追及する術がなく、何も言えなかった。
「あなたは、クルアハさんを愛してますね」
気まずい沈黙を破ったのはブランシュだった。
「……ええ」
デュドネは訝しげに答えた。どんな話をするつもりかと身構えた。
「では、クルアハさんはどうなのかしら」
「さあ、どうでしょう」
なぜブランシュがこんな話をしてくるのか、デュドネにはよくわからなかった。
「あなたにはどう見えますか?クルアハさんはどなたを愛しているのかしら」
「……掴みにくい人ですから」
デュドネにはわからなかった。クルアハが誰を愛しているのか。それとも誰も愛していないのか。デュドネのことを大事にしてはいるが、愛してはいないだろうとデュドネは冷静に分析していた。嫌われてはいない、好ましく思われているといいと祈っていた。
では、もしクルアハが誰かを愛しているとすれば、……それは一体誰だろうか。
「わたくしはレヴィがクルアハさんを愛してるように見えるのよ……」
デュドネはブランシュが何に悩んでいるのか理解した。彼女は恋の地獄にいる。
「……以前、僕がたずねた時にそれはないと二人で笑っていました」
デュドネもクルアハが愛していそうな人間として、真っ先にレヴィアンの顔を浮かべていた。だが、デュドネがクルアハとレヴィアンに2人は恋仲なのかと聞いた時、そんな事実はないとレヴィアンは大笑いし、クルアハは苦虫を潰したような顔をしていた。あれは本当のように見えた。二人は長い戦いを共にした仲間であり、男女の仲ではない。嘘ではないのだろう。けれども、それ以上の何かがある気がした。
「クルアハとレヴィアンに直接聞いたの?」
「ええ。機会がありましたから」
当然とデュドネが答えるとブランシュは自嘲気味に目を伏せた。
「……では、わたくしの勘違いかしら、ね」
ブランシュは振り返った。高く結った長い髪が口元に掛かり、柔らかく妖しい笑みを浮かべている。目の焦点はどことなし、だが、爛々と光っているようにも見える。緩やかに背中を丸くし、優美な左手でドレスの裾を持ち上げている。ドレスの柄の藤が彼女を絡め取り、縛り付けているように思える。
特別いつもと変わらないが、デュドネは一瞬、ブランシュが泣いているように見えた。




