16. ぼんくらやぼてんおたんこなす
デュドネが机に向かい、魔道具についてあーでもないこーでもないと考えていると、背後から物音が聞こえた。何だと思って後ろを振り向くと、そこには赤いドレスの美しい人がいた。
「…………どうしたの、クルアハ」
「突然悪い。……色々あった」
クルアハが神妙な顔で事の経緯を話した。ブランシュがデュドネの両親にクルアハがドレスを着たがっていると聞き、デュドネの両親が家に来たこと、クルアハはこの赤いドレスを用意されブランシュ達主催の晩餐会に出たことなどなどクルアハは事情をデュドネにつらつらと説明した。
「まずは、うちの両親が申し訳ない」
「気遣いがいきなり過ぎて驚いただけだ。で、どう?」
クルアハは手を広げてドレスを見せた。クルアハにとってこの赤いドレスはレースがひらひら、フリルがふわふわ、ウエストがキツキツといった言葉足らずな感想しか抱けなかった。恐らく質の良いドレスなのだろうとは感じている程度で、まさしく豚に真珠である。
「自分で選んだの?」
「いや、まあ、うーん……。なんで?」
クルアハはデュドネの両親が持ってきた服をただ着ただけであり、自分で選んではいなかった。もちろん、嫌々着たわけではないが、どうしてだか赤くてひらひらなドレスを着たいことになっていた。これは本当に大丈夫なのか、似合っているのかという不安が尽きない。
「似合っているけれど、らしくない」
「ふふふ、そうかもね」
クルアハは一番欲しい答えが聞けて満足した。
「近いうちに一緒に買いに行こう。……そうしたらいらない世話も焼かれない」
「こーゆーのが多いなら私はいいかな」
クルアハは服に好き嫌いは特にないが、ドレスというものは自分らしくはないという強い違和感があった。
「母がドレスは自由だって言ってたからきっと良いのがあるよ」
「それは素敵だ」
クルアハは何となしに素敵なお母さんだと思った。息子の心にポジティブな母の言葉が残っている。デュドネにとって自分の母はきっと尊敬できる部分がある人間なのだろう。
クルアハは自分の母を知らない。兄曰く、ろくでもない女でクルアハを産んだ時に死んだらしい。ちなみに、父親のことはもっと知らなかった。いるのかいないのか、兄と父親が一緒なのかすらわからない。クルアハにとってはどうでもいいことだった。
「両親は今どこ?」
デュドネが気まずそうな顔でクルアハに聞いた。
「多分、屋敷じゃないかな」
「説得して帰らせる」
「いたいだけいればいい。……それに、忙しいだろう。うちの団長が無茶な頼みをしたらしいね」
「無茶だったら断ってた」
「へぇ……」
きっとレヴィアンは良い頼み方をしたのだろう。意外や意外、デュドネとレヴィアンの仲が深まっているなと思い、クルアハは微笑ましく思った。
「……前、戦場で僕の魔道具あったら便利って言ってたね」
「デュドネ、もう戦争は起こさせないよ」
クルアハは強く言い放った。
「戦場ではなくても僕の魔道具はあなたの役に立つだろう。……だからやってる」
「ふーん……?」
クルアハはこてんと首を傾げた。
「……まあ、この指輪も実に便利だ。この前、チョコが出てきて驚いたよ」
「他にも出てくるよ」
「ふふふ、それは楽しみ」
クルアハは面白そうに指輪を見つめた。だから、デュドネがどのような顔でクルアハを見つめているのか、見逃してしまった。
「ねぇ、クルアハ。……忙しくないし、両親の責任も取らなければいけない」
両親のことも負い目に感じているとは責任感が強いなぁとクルアハは思った。
「だから……、屋敷に行ってもいい?」
「当たり前だ。自分の家だろう。全然寄り付かないから、みんな心配してるよ」
デュドネの問いにクルアハは首を傾げた。
「……寄らないって言った手前、行きにくい」
一瞬何の話だろうかとクルアハはわからなかったが、そういえば初めて会った時に屋敷に寄らない宣言していたなと思い出した。
「過ぎた話だろう」
「そんな一気に切り替えられない」
「ふーん」
「クルアハは優しいから気にしてないだけだ」
「これは優しさではないな……」
もういいじゃないかと割り切っていたクルアハにはよくわからない感覚だったが、これを機にデュドネが屋敷に帰るようになればいいと思った。
ここではっきりと述べるが、クルアハは自分の機微も他人の機微も汲み取れないボンクラなのだった。




