12. 冠婚葬祭をノルマみたいなノリでやる人
主役の二人が挨拶回りを始め、クルアハとデュドネのところにやってきた。
「久しぶりね、デュドネ」
お色直しをしたブランシュは自慢のワインレッドの髪と同じ色のドレスを着こなしていた。ブランシュは夫になったレヴィアンに寄り添っている。愛した人と添い遂げ、この世の幸せを一身に浴びていた。
「……ご結婚おめでとうございます。ブランシュ様」
「他人行儀だこと、幼馴染ですのに……」
ブランシュはデュドネの定型文を聞いて、悲しげに目を伏せた。
「団長、おめでとうございます。素敵な結婚式ですね」
「ありがとう」
こちらの上司部下のやりとりも他人行儀である。とても普段は部下が上司の机を椅子にしているとは思えない。
「君達も素敵な装いだね。……途中で抜けられないくらい注目を浴びているよ」
にこりと白々さが光る笑みをレヴィアンは浮かべた。
「クルアハさんもよくお似合いです……。ですが、残念ですわ。今日はドレス姿が見られると思ったのに……」
「はぁ……」
皮肉か、嘲りか、素直な感想か。よくわからんがメンドクセッとクルアハはやけになった。
「お揃いにしてみたかったんです♡」
クルアハは隣にいたデュドネの腰をガッと引き寄せた。
「…………ッ!」
デュドネは借りてきた猫のように身体を強張らせた。
「顔が赤いね。……飲みすぎた?ちょっと休もうか」
その勢いで式を後にしようとクルアハはデュドネの腰を抱いたまま、中庭へと向かった。半ば、クルアハの一人芝居だった。
「上手いこと抜けられたね」
「どうだろうか……」
強引ではあったが、式場から合法的に抜け出すことができた。クルアハは成功成功と肩をすくめた。
「しかし、顔が赤いのは事実なんだよな。酒は飲んでないし。……もしや熱?」
「違う……。大丈夫だから!熱なんてない!!」
「ほんと?」
おでこに手を当てようとしてくるクルアハをデュドネは必死に止めようとした。
「アハハハハッ、随分翻弄されているね」
静かな中庭に水を持ったレヴィアンが現れた。
「主役が抜けちゃマズいだろ」
「みんなブランシュ姫に夢中さ」
レヴィアンは具合が悪いらしいデュドネの様子を見に行くと言って、一時場を抜けたのだろう。だが、それはただの方便のようで、持ってきた水を自分で飲み始めている。腹立つ野郎だ。
「君達が仲良しでお偉方はみんな驚いていたよ」
「平民と貴族、軍人と文官。属性でしか人を見れないなんて悲しいねぇ」
クルアハは悪巧みが成功したような笑みを浮かべた。
「僕もあなたとこんなに親しくなれるとは思ってなかった」
「えぇ……?」
「人は型にはまる生き物だから。貴族で文官はランスの悪魔と縁のない人生を送ると思っていた」
「デュドネは型破りタイプでしょ」
「そんなことない。……あなたには負ける」
「何を言う。私は至極真っ当な騎士だよ」
クルアハは妙に気張って胸を張った。
「ンフ、ふふふふ、アハハハハハッ」
二人のやりとりを見て、新郎は今日一番の笑みを浮かべた。何さというようにクルアハはレヴィアンを見た。
「ふふふ、何でもないぜ。クルアハが気に入るわけがわかるなー」
「ん?」
「バカ真面目、結構好きだろう」
「嫌いじゃないよ」
「アハハハ」
レヴィアンは笑いを収め、もう戻る、寄り道せず帰れよと言って、中庭を後にした。結婚式という晴れの舞台に戻る背中ではない。とても気が重そうだった。
「彼はブランシュ王女を愛してないのか……」
「さあね……。ただ式が怠いだけじゃないかな。まあ、何にせよ王女様のことを大事にすると思うよ。選んだからね」
「へえ……」
レヴィアンは愛しているから大事にするわけではなく、愛していないから大事にできないわけではない。ただ、難儀な男でもあるため、生涯かけて選んだ責任とツケを払うことはできる。
「そういや、お腹空いてない?」
「言われてみれば少し……」
「ラーメンとかどうかな」
「行ってみたい……!」
あっさりとこってりどっちがいい?なんて平和な話をしながら、二人は夜のラーメン屋に寄り道した。デュドネと当たり障りのない話をする時間をクルアハはそれなりに気に入っていた。




