11. 結婚式、最初は楽しいが段々飽きてくる
遂に迎えたレヴィアンとブランシュ姫の結婚式。クルアハとデュドネは揃いの服で出席した。二人が会場に現れた瞬間、ざわめきが沸き起こった。大方、文官・貴族と軍人・平民という相反する二人が噂以上に仲睦まじくしていることに驚いているのだろう。しかも、いつもは社交界の場に姿を現さないデュドネが夫婦同伴で美しい正装姿を見せている。内心腰を抜かしている者も多いに違いない。至極痛快とクルアハは煩わしい催しの場で気分が上向きになった。
しばらくしていると、主役の夫婦やら国王夫妻や王太子夫妻などなどが姿を現し、結婚式がスタートした。クルアハは興味無くぼんやりと眺めていた。ふと、気がつくと、お色直しの時間に入っていた。
「君達も結婚おめでとう」
待ちの時間を利用して、国王陛下がクルアハとデュドネの方に近づき、声をかけてきた。クルアハはヒョエーとワインを飲もうとした手を止めた。
「国王陛下のおかげです。ありがとうございます」
クルアハはテキトーに笑って、テキトーに感謝の気持ちを述べた。
「……正直、君達がここまで仲睦まじいとは思っていなかった」
国王はクルアハとデュドネのお揃いの服を見た後、目を細めながら指輪に注目した。
「デュドネ、結婚してから両親に会ったか?」
「いえ」
「夫婦で顔を見せてやれ。きっと驚く」
「……かしこまりました」
デュドネは恭しく頭を下げた。クルアハはデュドネのご家族に挨拶するのはすっかり忘れていたと申し訳なく思った。
「ブランシュも君達みたいに仲睦まじい夫婦となれるだろうか」
「私達以上に素敵な夫婦になれると思います」
クルアハはテキトーな笑顔で、テキトーに国王に合わせた。
「レヴィアンの気持ちを考えずに結婚を了承してしまった。あやつも好きな人がいたやもしれんのに……。私はブランシュを甘やかし過ぎたのだろうな。これでよかったのかという疑問が消えぬ」
「……それが親心というものでしょう」
クルアハの答えに国王はやや微笑んで次の出席者のところに向かった。クルアハはため息を吐き、デュドネの方を見た。
「……悪い。私に両親がいないから失念していた。一緒にご家族へ結婚の報告をするべきだったね」
「いや……、奔放な二人だから気にしなくていい。会いたいならあっちから来る」
「デュドネ、髪と瞳の色はどっち似?」
「…………母親」
「ふふふ、俄然会いたくなったな」
「黒髪、黒い瞳だったら誰でもいいのか」
「あなたに似た美しい人なら会いたいってことでどうかな?……変なことは考えてないから安心してくれ」
にこにことクルアハは笑った。デュドネは困ったように顔を顰めた。
「……クルアハはどうするの?」
「ん?」
「いやその、孤児院の方に挨拶はいいのかなと……」
デュドネは話の焦点をクルアハに変えた。そして、距離感を探るようにクルアハの様子を窺った。
「……長いこと帰ってないからなぁ」
「どのくらい?」
「5年以上かなぁ。……ここからは遠いし、無理に行くような場所じゃない。やたら移動時間がかかる。大きな町から遠い山ん中だから不便なんだよなぁ。顔見知りも少なくなったしね。……だから、デュドネが気にすることじゃないよ」
クルアハは長々と話し、煙に巻いた。
「うん、わかった……」
話しにくいことを聞いてしまったとデュドネは肩を落とした。別にそーゆーわけじゃないんだがなぁとクルアハは左目に手をやった。
「……家族はね、5つ上の兄がいた。戦時中に死んだがね」
「どんな人?」
「……どうしようもないくらい優しい人だった」
「あなたと一緒だ」
「全然違うよ。……私は人殺しは嫌いだが、自分のためなら割り切れる。……兄さんは優しさ故、人殺しのブレーキが壊せなかった」
殺す必要があればクルアハは何だって殺せる。兄は人を殺す度、人に戻れなくなると話していた。そうだとわかっていても進み続けてクルアハとレヴィアンは英雄になった。
「どちらかと言えばあなたと一緒だ。魔法省の異端児さん」
「……え?」
「あなた達に血は似合わない」
デュドネは何とも言えない微妙な顔をした。
「……戦争の英雄は僕を恨んでいないのか」
「なぜ?」
クルアハは意味が分からないというように首を傾げた。
「戦争に非協力だったから」
「あなたが作った魔道具があればよかった場面は星の数ほどあると思うよ。でも、恨んでいない」
「……本当に?」
「だって、上に頼まれてた武器って75年は草も生えない殺戮兵器って噂だった。嘘か誠か知らんが、そんなもんフツーは造りたくなかろうよ。……それに、騎士団もいらない。そんなに愚かじゃない。盗られたらどうすんのよ、余計に死んだらどうすんのよ、戦後どうすんのよ、コントロールしづらい強力な武器は仇となることもあんのよ」
クルアハは長々とデュドネに当たり障りのない説明をした。
「……そっか」
デュドネは安心したように笑った。魔道具を断り続けた時の葛藤が僅かに報われた気がした。
「それにしても、フツーは、か。あまり言われたことがない」
「嫌?」
「いいや、全く……」
クルアハはデュドネが公爵であること、天才的な魔道具を作ること、そして、魔法省の異端児であることをただの事実として見ており、特別視していない。何でもできると縋ってこない。デュドネはそれが嬉しかった。




