かずまとゆうま
早く大人になりたかった。
とにかく勉強が苦手な俺は、大学に進学する事など早々に諦めていた。
中学3年の進路希望で美術と工業なら推薦で行けると担任から聞いたので、あまり悩む事もなく工業高校へと進学。
真面目に通った甲斐あって、留年する事もなく来年の春には無事に卒業出来そうだ。
弟のゆうまは優等生だったので(双子なのに頭の出来は…)進学高へ進み、大学受験に備えて頑張っている姿を俺はよくからかったりしていた。
「かずまも来年からは社会人か…スーツとか着んのかな?」
カウンター横から話しかけてくるゆうま。
「高校は私服だったからな…スーツとかは堅苦しくて嫌だけど」
まわりに聞こえないように小声で返事をする。
…何せ他の人にはゆうまは見えていないのだから。
この店でバイトを始めたのは3ヶ月前。
深夜勤は年齢制限がありそうだったので、ここでは中卒の19歳フリーターという肩書きで働かせて貰っている。
店長代理は31歳だったと聞いた。
仕事にあまりやる気が無いのだろうか、いつもつまらなそうな顔をしている。
バイトの面接の時も出鱈目な履歴書を興味無さそうに眺めて「ふ~ん…明日から来られる?」…と、俺をあっさり雇ってくれた。
深夜勤の仕事は、大して多くない。
次々に運ばれてくる商品を棚に補充する。
足らない商品を必要数発注する。
客がいない間に掃除をして…
明け方にパンと新聞や雑誌が届く頃には朝勤とシフト交代して1日が終わる。
…後は学校で爆睡する毎日だった。
製図や実習の勉強は真面目に受けていたが、国語や社会などは成績がガタ落ちした。
授業中は寝ているだけなので当たり前の話だけども…卒業さえ出来れば問題あるまい。
「早く掃除して休みたいなぁ…」
大きなあくびをひとつしながら…つい本音がポロリとこぼれる。
住宅街にあるコンビニとはいえ、日中は結構なお客さんが来るらしいけれど、その回転は早い。
こんな時間帯に緊急で買い物をするような客はめったにいないので…店内にはまったりとした空気が流れていた。
「なぁ、かずま…気付いてるか?」
「ん?…あぁ、あの子だろ?」
ニヤニヤしたゆうまに言われなくても、その視線には大分前から気付いていた。
後ろで大きく一本にまとめられた三つ編みの少女。
今は化粧品のコーナーにいるその少女は深夜にちょくちょく見かける常連客の1人だった。
「絶対かずまに気があるんだよ」
「…コンビニの店員と客の関係以上とか…アニメの見すぎだろ…」
ひとつ下くらいだろうか?
ジロジロと見てくる訳ではないが、視線を感じる事は…それなりに多かった。
工業高校は共学とはいえ、クラスに女子は1人だけ。
彼女のいない寂しい男子高校生の悲しい妄想かとも思うけど…ゆうまの言う通り、俺を意識している様に見えるのは確かだった。
「彼女の1人も出来ないままに高校生活終わっちゃうのは寂しいとは思わないのか?」
「…彼女持ちの上から目線のアドバイスをありがとう。一応俺は仕事中なんだけど知ってた?」
ゆうまには彼女がいる。…いた。
俺と同じ顔をしているのに、どうしてゆうまだけ…とも思う。
勉強も出来て、彼女も出来て…不公平とは正にこの事だろう。
彼女はゆうまの葬式には来なかった。
あまりに突然の事過ぎて…来られなかったのだと思う。
ゆうまの同級生らしく、直接の俺の友達では無いし、当然連絡先も知らなかった。
ゆうまは彼女の事を何も語らない。
ゆうまは、あの日に何があったのかですら教えてはくれなかった。
ただ当たり前のようにそこに居て、雑談はするけど肝心な事は何も聞き出せずにいる。
ゆうまは何を望んでいるんだろう…?




