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俺には精霊がついているらしい  作者: あいえる


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第三百五話 私の願いは神の願い


 席は用意されているはずなのに会話の輪の中には入っていない者は視線だけを移ろわせて。

 うつらうつらとぼんやりしていればそれこそ除け者にされてしまうのが目に見えているため、気を緩ませることは許されず。


「この世界には必要がない存在をいつまでも野放しにしておけないでしょう?」


「何を勝手に決めてるんだよ」


 リィは自身の妹のことであればジーンの顔を踏んづけてでも俺がお兄ちゃんだぞとその主導権を譲らなかったはずなのに、今は大人しく話を聞くに徹していた。

 苛立ちを抑えているわけでもなく我慢を強いられているわけでもなく、彼は彼自身の意思で無言を維持していた。


「そもそも必要ないってどういうことだよ。そこの説明をしてくれ」


「説明も何も言葉そのままです。言葉通り必要のない存在なのです」


「だからそれじゃ納得も何もできないって言ってるんだっての。まぁ何を言われても納得なんてするつもりはないけどさ」


「……異物、とでも言えば理解できますか? この世界の存在ではないのです」


 分かり切っていた。お互いに譲らない状況になることなんて分かり切っていたことだった。

 ジーンはミィを諦めるつもりなんてなく世界の意思もミィを解放するつもりはなく。


 幾億と言葉を叩きつけようとも意思という壁が壊れることはない。

 綻びなんてものがないから欠陥というものがないから、人はそれを完璧と呼ぶのだ。


「どうすれば解放してくれるんだ?」


「即、その命を奪うと誓ってくれるのならば今すぐにでも」


「できるわけないだろう!?」


「だからこそ。あなたを理解しているからこそ隔離という選択をしたのです」


 とうに注がれていたお茶の湯気は消えて。しかし熱気ならば蒸れるほどに。

 過熱する前にと水を撒くのはジーンの隣に座るチャチャではなく、それは神子の役目。


 一緒になって仲良く暴走しかける二人を上手く制御するのは神子なのであった。


「そういえば、あなた方は創造神様にお会いになっているのですよね」


「創造神……? あぁ、うーちゃんのことか」


「全ての始まりであるお方になんと失礼な……と言いたいところですが、創造神様がそう願われた故なのでしょうね」


「逆らったら文字通り消し炭にされるかもしれないからな」


「では、創造神様が望む世界については何か聞いていますか?」


 うーちゃんが望む世界。脳内で過去へと旅に出るジーンであったが、これだと言えるような何かを語っていた記憶はなく。

 冗談で言っているのか本当に願っていることなのか定かではないモノが多かった。


 いつか聞いた気がする毎日お菓子を食べていたいというそれが望みである可能性は低いだろう。

 世界の意思が期待する答えではないと判断し、ジーンは知らないと首を横に振る。


 うーちゃんのことであればと神子へ視線を向けるが、どうやら知っている様子ではあるが彼女から話すつもりはないらしくジーンを真似て首を振る。

 それは本人の口から聞いて欲しいからなのか、それとも世界の意思に睨まれているからなのか。


 もどかしい。今すぐにでも殴りかかってミィの居場所を吐かせたくなるジーン。

 しかし、言ってしまえばミィは人質。強引な手段を取ればミィがどうなるのか分からない以上は下手に動けない。


 話し合いで済むのならそれに越したことはないのだ。


「――創造神様の望みはこの際どうでもいい」


「……は?」


「今となっては私の目的こそが最重要なのです」


 何を言っているのか困惑してしまう。声色が若干低くなったことにより気味の悪い企みの存在を思わせる。

 龍先生によれば世界の意思は神の代行者のようなもの。基本的には神のやりたいことに沿って世界を動かしていくはずなのに。


 事前に知らされた世界の意思の存在意義を考えれば神の望みはどうでもいいという発言は矛盾しているように聞こえる。

 少なくともジーン含めチャチャは予想外の言葉であった。


 神の手から離れたとはいえ神が本当に望まないことはしない。それが龍先生そして師であるリーンの共通認識であったはずなのだ。


「理解できないという顔ですね。ふふふ、人とは変わるもの。不変であるという決めつけは少々愚かではありませんか?」


 お前は人じゃないだろと言い返すには状況が悪いか。

 何をする気なのか。いや、一体何をさせる気なのか。


「あ、そういえば訊いていませんでした。私の元へ戻って来るつもりはありますか?」


「断ったら殺すとか言わないでしょうね!?」


「あぁ五月蠅い虫がいますね。可愛い我が子にそんなことするわけないでしょう」


「ふーん、どうだか」


 ここにきて違和感。絵画を鑑賞しているかのように表情の変わらなかった、光の加減や角度で表情の印象が変わる程度であった世界の意思の表情が崩れる。

 子供の落書きに荒らされたように。風化し色褪せたかのように。


 初めて世界の意思を“生き物”であると認識できた瞬間であった。


「それで、やっぱり全部を委ねる気は無い?」


「当たり前だ」


「だよね~」


 この変わりよう。口調こそそこまで変わっていないものの先程までとはまるで違った相手と話しているようで、それはどこかうーちゃんに近いものを思わせる。


「素直なままだったら良かったのに。あぁ、面倒臭いなぁ」


 どこを視るのか目線はふらり。

 飽きたと言わんばかりに姿勢を崩してもとより頼りなかった衣服をはだけさせる。


「じゃあさ。私のお願い、叶えてくれる?」


 それは魅力的な提案。どこまでも甘くどこまでも深く、身体を蝕み受けれたら最後もう引き返せない。

 それを知ることになるのはもう少し後の事だが、しかし。


 世界の意思の思惑とジーンの覚悟は重なり合うことになる。


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