琥珀、もといエーリル
説明回です、飛ばしてもらっても問題ないと思います。
最後の数行だけ進展します。
「ヨハン、地図を頂戴」
琥珀が席につくなり、エリスは長テーブルからはみ出すほどの大きい地図を広げた。地図にはいくつもの印が書かれ、相当使い込まれているようだった。
「早速説明するけど、まずこの世界では魔物が存在し、人々は魔物と戦い続けてきたの。魔物はどこから来て、どこへ消えるのかは謎。今までなら魔物に気づかれない魔法をかけたり、安全な場所へ逃げたりと、それなりには生活が出来ていたの。けれど半年前、あの鎧の姿をしたノーネームが現れ、次々に人々の村や町を破壊し始めた。私たちは最初、魔物の仕業と考えたけれど、その魔物の巣がノーネームに破壊されるのが目撃されたわ」
「じゃあ、正体不明の第三勢力が現れたってことか?」
エリスはそういうこと、と頷くと説明を再開した。
「この地図の印はノーネームに破壊された村や町の場所よ、ノーネームについての説明はまた改めてするわ。まず、人間側の勢力としては基本的に三つ、私たち魔法族、武装族、妖精族に分けられるわ。まずは魔法族ね」
そういうと、エリスは地図の平原に当たる部分を白くぼんやりと光る線で囲った。
魔法族は魔術を得意とし、日々魔術の鍛錬に励む。魔法は火と水、そして風と雷の四つに分けられる。稀に特殊な魔力を秘めた者も現れることがある。リーダーであるエリスの魔力は異質で、光に分類される。鉱石に魔法をかけ、炎が吹き出る剣や水を生み出す宝石など、多種多様なことができる。
元々、魔法族は平原に街を作り繁栄していたが、ノーネームの襲撃により現在は地下のような場所に隠れ住んでいる。他にも魔法族は存在するが散り散りとなり、今この隠れにいる魔法族が主体となる。
(他にも説明はありますが長いので後々触れていきます)
次に、妖精族。
深い森林や山などに生きる妖精と共に暮らす種族。その体には妖精の血が流れ、魔法族とはまた違う魔法を使う事ができる。さらに普通の人間とは違い、森を素早く駆け抜けるほどの身体能力に加え、鋭い五感を備え持つ。独自の文化があり、他の種族とは最低限の関わりは持たない。
ノーネームが現れたことにより多少は協力的になったが、それは一部の妖精族だけであり、大半は自分達だけの守りを固めている。
最後に武装族。
鉱山に要塞の如く街を構え、武具を作り出すのに長けている。魔術のようなものもなく、妖精族のように特殊な文化もないので、極めて平均的な種族。しかしその鉱石からものをつくる技術は素晴らしく、出回っている武器などのほとんどは武装族が作ったもの。
血の気が多く、自分で作った剣で魔物と戦いに行くのもしばしば。積極的に他とかかわり、魔法族とも仲が良い、しかし閉塞的な妖精族からは毛嫌いされる。
ノーネームが現れたことにより、ほとんどの人々が剣を手に取り戦い始めた。現状ノーネームとの最前線と戦っているのが武装族、魔法族は補助にまわり手助けをしている。
その他にどこの種族にも属さない人々もおり、その人らは様々な場所に暮らしている。人の数も多く、農民や商人など、それぞれの種族との架け橋的な役割を担う。
しかし、ノーネームの襲撃による被害が一番多く、その数は激減する一方である。
エリスは一息つくと「質問ある?」と琥珀に聞いてきた。
「じゃあ聞くけど、具体的に俺は何をすればいいんだ?」
「そうね、私がノーネームが出現する原因を突き止める間、ノーネームが各地を破壊するのを阻止してほしいの。そして原因が分かり次第、全勢力で叩くわ」
琥珀は質問を続けた、長い話になると察したのか、側に立っていたヨハンは飲み物を入れてくれた。不思議な香りのする液体であったが、琥珀は質問を優先させた。
「ノーネームは単に数で攻めてくるのか?」
「いいえ、コアという球体から湧き出てくるの。コアは町のど真ん中や、洞窟の中など、破壊目標となる近くに出現するわ。大きさとしては大きいのから小さいのまで様々ね。コアは時間がたつと地形を変えるくらいの大爆発を引き起こすの。そのせいで村が消し飛んだり、洞窟が爆発すれば山が崩れて周辺の町などが消えるのよ」
「そのコアを破壊すればいいのか?」
「そう、コアは爆発する前に叩いてしまえば消滅するわ。けど爆発の準備が整うまでの間にあのノーネームを生み出すの。小さいコアからはそこまで生み出されないけど、大きいのだったら軍隊のような量を出してくるわ」
「次に現れる場所とか時間は分かるのか?」
「時間と場所は予知魔法が得意な魔法族に任せてるわ、時間が合い次第、そこに部隊を出撃させるの。部隊は集められた魔法族、武装族が混合した部隊で行くわ、人数はコアの大きさに合わせて行かせるの」
「てことは、今も戦っている人がいるってことか?」
「そういうこと、私は一応魔法族のリーダーだけど、コア破壊部隊は他の人に任せてるわ、私は私でやることがあるからね」
琥珀は早速実戦に投下されるのかと思うと、自然と手に汗がたまってきた。エリスが操る鎧にはなんとか勝てたものの、そう何度もうまくいくとは思えなかった。
「とりあえずあなたには、一ヶ月ぐらい訓練をしてもらうわ」
「はい?」
エリスはいたずらな笑みを琥珀に向けた、
「いきなり戦わせるのかと思った?流石の私でもそこまでしないわよ、訓練に関してはヨハンに任せるわ」
ヨハンは「はいっ」とはっきり答えると、琥珀の側に立った。
「あ、そうそう」
何かを思い出したのか、エリスは小筆の杖を取り出すと、空中に魔法の線で文字を書き始めた。
エーリル
空中にはそう並べられた文字が浮かんでいた、
「これからのあなたの名前よ、この世界では名前をもらうだけでも意味があるのよ、あと馴染めるようにね」
「・・・すべてが終わったら。元の世界へ返らなければならないのか?」
「それを決めるのは私じゃないわ、あなたよ、エーリル」
琥珀、もといエーリルはその名を受け入れた。琥珀という名は、そのときのために胸の奥にしまうことにした。