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自覚

エーリル。自分の名前を何度も心の中で反響させた、そうすると何故だか自分を受け入れた気分になった。

「さあ、エーリル。今日はもう休んで、明日から修行してくれるかしら?」

「分かった、そうする」

エリスはまだ仕事があるらしく、街の中を案内するのはヨハンとなった。エーリルは見上げるような巨体に圧倒され、躓きながらもヨハンの後をついていった。そとへ出ると、相変わらず街は薄暗く、壁の中なので今が何時なのかは分からなかった。

「生活する場はこちらで用意しました、今から案内します」

機械のように抑揚がなく、はっきりとした口調で言った。同じような天幕がいくつも並んだ場所を通っていくと、ヨハンは不意に立ち止まった。そこには周りと見分けのつかないような天幕であった。

「こちらがエーリル様の物となります」

「み、見分けつかないんですけど」

「ご安心を」

露骨な本音にも顔色一つ変えず、ヨハンは小振りの杖を取り出すと出入り口の足元に魔方陣を描いた。

「明日から行く修行場と、この天幕に移動用の魔法陣をつなげておきます。一瞬で向こうと行き来できるようになります」

なるほど、修行場以外は行かせないって訳か。そう解釈したエーリルはお礼を言った、

「では明日の朝、お迎えにあがります」

そう言い残すとヨハンは、軽い足取りで立ち去ってしまった。その様子をエーリルは見ていた、ふとお腹がなった、何か食べるものは無いかと思い天幕の中へ入っていった。暗く、出入り口のすぐ側にあった手持ちランプのスイッチを捻った、すると頼りない光ではあるが、エーリルの行く先を照らした。中は見た目からは想像できないような広さになっていた、たぶんこれも魔法の力だと納得したエーリルは、天幕の中を散策した。

広さはエリスの場所より広くは無かったが、一人で生活するには十分すぎた。一階と二階があり、どちらも床は毛皮の絨毯が敷かれ、骨組みは金属よりも丈夫そうな木で出来ていた。一階にはテーブルと椅子が置かれた居間と、簡易的な台所があった。台所には調理用ナイフが2本、元の世界では見たこと無い形をした調理器具らしき物が一セット、受け皿やコップが2つずつ、そして空っぽの壺がおいてあった。壺は腰ぐらいまである巨大な壺で、飲み水を蓄えるものと判断したエーリルは台所を後にした。

居間へ戻ると、テーブルの上に籠いっぱいの果物がおいてあることに気づいた。これまた元の世界では見たこと無い果物で、空腹に耐え切れないエーリルは恐る恐る手を伸ばした、手に取ったのは罰ゲームであっても素足で逃げたくなるようなえげつないものだった。形はシンプルに野球ボールのような丸い形であったが、色は紫、黒、茶色など自然界では他のものを寄せ付けないような色をらせん状にしたようなものであった。エーリルは思い切って一口頬張ると、思わず声を上げてしまった、意外においしかった、甘さもさっぱりと優しく、ハーブのような柔らかな香りが口いっぱいに広がった。

上機嫌になったエーリルは、他に2~3個の果物を平らげた、そして質素だが丈夫な梯子を上り、二階へとあがった。あがるとすぐに、姿見の鏡が目に入った。鏡には琥珀ではなくエーリルが映っていた、今までテレビでも見たことがない透き通った青い目、銀色の髪の毛、そして髪の色と同じ鎧。自分と同じ動きをする鏡に映った自分は、本当に変わってしまったんだなと実感した。鏡から目線をはずすと、すぐ横には鎧をかける棒が立っていた。

「そういや、鎧してたんだっけ」

あんまりにも動きやすく、着ていることを忘れていた。まず手のガンカレットを外した、そして次々に鎧を外していき、やがて全身の鎧を脱ぎ終わった。体に残ったのはシルクのような布服だけだった。中学生の頃、そういったファンタジー系にはまり、そういった資料を読み漁った。その資料の中に鎧のことが書かれてあったことを思い出した。

「まさか、こんなことで役に立つとは、人生何があってもおかしくないな」

二階は一階よりも狭く、鏡と鎧掛けのほかにベットが置いてあった。ランプの光を消し、ベッドの上にエーリルは身を投げた、包まれるような感覚の後、ふと元の世界のことを考えた。

今は何をしている時間なのだろう、まだ夕方なのだろうか。もしそうだとしたら琥珀という人間が世界からいなくなったことを誰が知っているのだろうか、時が立ち無断欠席として扱われていた存在は、行方不明と書き換えられるだろう。そうなったとき、心配してくれる人はいるのだろうか、最初に思いついたのは両親の顔であった、次は浮かばなかった。

ある程度話したことのある人でも、自分のことを心配してくれるとは考えにくかった。学校内では様々な噂が飛び回り、しばらくの間話の種になるだけで、その後は琥珀の存在は時間とともに消え、両親は一時は悲しむだろうけどやがて立ち直ることだろう。そう考えていると頬に熱い線が走った、エーリルは頭を振り、深い眠りについた。



今は何時だろうか、意識がはっきりとしたエーリルは暗闇の中、ランプを探し当てると光をともした。体の具合からして8時間は眠ったと思った、とりあえず鎧を装着し、一階へ降りていつかの果物に手を伸ばしていると、玄関のほうからヨハンの声がした。

「エーリル様、お迎えに上がりました」

エーリルは固まった体をほぐしながらヨハンの元へ向かうと、ヨハンはエーリルの姿を見るなり深くお辞儀をした。一体何を食べて何を学べば、あのような体と性格になるのだろうと考えながらも、エーリルはヨハンの後についていった。



移動用魔法陣を踏むや否や、目の前の背景は一瞬にして変わった。エーリルが立っていた地面は固く、周りには夥しい(おびただしい)量の武器や防具が並べられていた。

「ここは崩壊した魔法族の街、その地下の訓練場です」

ヨハンは手ごろな剣を手に取ると、エーリルに渡した。

「魔法族は魔法を主に使う族ですが、剣を手に取る時もあるのです。一ヶ月では魔法の取得は不可能です。しかし、剣術なら一ヶ月で基礎を覚えられます」

ヨハンは自分の剣を引き抜くと、エーリルに対してお辞儀をした。

「では、一ヶ月。よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ。出来れば厳しくないように・・・」

修行漬けの日々が、こうして始まったのです。

修行のシーンはすべてカットします。どのようなことをしたのかは書きますけど

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