逆転
「ほら、起きなさい」
そうエリスに声をかけられると、今まで寝ていたような意識が覚醒した。先ほどの場所とは打って変わり、今度は濃霧に包まれて、周りの景色が一切見えなかった。
「ついたのか」
「ええ、今はまだ霧が濃くて見えないけれど、もうすぐ迎えが来るはずだわ」
ふと、琥珀は体の違和感に気づいた。自分の体を見ると制服を着ていたはずだったが、いつの間にか銀色の鎧を着ていた。
とても軽く、関節が動くのを邪魔しないように動きやすい。鎧の下にはシルクのような肌触りがいい服が着せられていた。
そして何よりの違和感が体型だった。以前は運動していないといってもそれなりの筋肉で、男性としては標準的な体型だったのに対し、今は腕は華奢な細くて白い腕で、足はスラリと長い足に変わっていた。
極めつけは時々視界に入る長い髪の毛だった、鎧と同じで銀色の髪、少なくとも腰まではある長さだった。
「えっと、まさか」
「あら、かわいらしいじゃない」
エリスはそういって懐から手鏡を取り出して、琥珀に向けた。手鏡に映っていた琥珀の姿は男ではなく、少女だった。青い目で整った顔立ち、どこからどう見ても、琥珀の以前の面影は感じられなかった。
「何故!?何!」
「声も可愛らしいわね」
「おい!」
「はいはい、冗談よ。正直言って、私にもさっぱりだわ」
エリスは頭をかきながら目線を泳がせた、琥珀は何度も詰め寄ったがエリスは分からないの一点張りで、琥珀はどうしようもなかった。
「じゃあ、この鎧と服はどう説明するんだ」
「分からないわ、私だって気づいたら男の子がいたいけな少女になってたんですもの」
琥珀はどうも納得がいかず、腕を組んで頬を膨らました。
「本当はうれしいんじゃなくて?」
「うるさい、ちゃんと元に戻る方法を見つけてくれ」
「はいはい」
その時、さっきまでまったく前が見なかった濃霧が薄くなり、だんだんと黒い建物のような影が見えてきた。
「よし、ちゃんと座標は合ってるわね」
やがて濃霧は晴れ、見えてきたのは街だった。しかし、その街には人影が一人居らず、建物の外装は剥がれ落ち、鎧の破片や折れた剣などの戦いの後が散らばっていた。植物も動物も見当たらず、命の気配を感じなかった。
「これが、エリスたちの拠点か?」
「そんなわけないでしょ。後で説明するけど、私たち魔法族の街はここだったのよ、それがノーネームの襲撃によって落ちたわけ」
エリスは一切感情がぶれず、淡々と説明していた。琥珀の目には、そうしているのが我慢しているように思えた。そう思っていると気づいたのか、エリスはただ、ふふっ、と静かに笑った。
「もう悲しむことは済ませたの、今は前を向く時よ」
残骸となった街を進んでいくと、瓦礫の影から一人の男性が二人の前にでてきた。
「お待ちしておりました、エリス様」
男性の身長は二メートルはあるんじゃないかというぐらい大きく、身長の割には髪を丁寧に整えたりと、清楚な顔をしていた。体にはローブを巻き、腰には細身の剣が差し込まれていた。そして手には宝石の飾りが施された杖を握っていた。
「ただいま。呼び出しはちゃんと成功したわ。あと様つけるのやめて」
男性は琥珀のことを見ると、不思議そうな顔を浮かべた。
「呼び出したのは男性とお聞きしたのですが」
「いや、最初はちゃんと男だったんだけど、こっちに来たらこんなことに」
「とんだ災難だ」
男性は琥珀に近づき、深深とお辞儀をした。琥珀はたじろぎながらも、お辞儀をした。
「私はエリス様の補佐、ヨハン・ホルクです。ようこそ、救世主様」
「ど、どうも。天瀬琥珀です」
救世主といわれ、心がくすぐられたような感覚を覚えた。
「もう私たちの拠点へ行きましょ」
「はっ、分かりました」
ヨハンは機械のようにすばやく踵を返すと、きびきびと歩き出した。エリスは琥珀の耳元に顔を近づけると、ささやくように言った。
「私ああいう固いの苦手」
二人はさっさとヨハンの後についていった。ほんの少し歩くとヨハンは立ち止まり、持っていた杖を地面に突き立てた。すると突きたてた杖を中心に円形の模様が広がった。そしてだんだん模様が輝きだし、ついには目を開けてられないほど眩しくなった。
「ついたわよ」
エリスが横でそう言い、それを信じて目を開けると先ほどとはまったく違う景色が広がっていた。前には黒い金属で出来た扉がどっしりと構えていた。その周りには見上げるほどの石崖が聳え立っていた。
「説明はひっくるめてあとでするから、とりあえず中に入りましょ」
黒い扉の側に立っていた門番は、エリスたちを見た瞬間、体に鉄の棒が入った様に真っ直ぐ立って敬礼をした。そして敬礼を終えると、腰から箸のような杖を取り出し、黒い扉の前で何かの模様を描いた後、杖を振りかざすと黒い扉は徐々に開いていった。
十分に人が通れるぐらいに開くと、ヨハンがせっせと歩き始めた。琥珀は置いていかれないようにと小走りでついていった。
壁の中では、エリスやヨハンと同じようなローブを着た人たちが生活をしていた。壁の中では日の光がなかった、道の脇には街灯のように火がともされた灯台が数え切れないほど並んでいるだけで、街は全体的に薄暗かった。
家の代わりとなっていたのは天幕であった、エリス達が立ち止まった天幕は周りと同じような外装で、他のものとは区別がつかない。
琥珀は中に案内されると、心底驚いた、見た目からは想像できないほど中が広かったからだ。ちゃんと二階まである上に、走り回れるだけの広さがあった。いわゆる魔法というものなのだろうか。
「はい、こっちに座って」
エリスは大きく長いテーブルの前に椅子を置くと、琥珀にここに座るようにと促した。
次は長ったらしい説明




