プリンの日
そんなふうに悪口を言われる事がありつつも、ポリーは変わらずリンを守っていた。しかし次第にポリーが手助けする頻度が減ってきた。リンが自分から危険を避けるようになってきたからだ。
元々リンはカンの良い子供ではあった。じゃんけんは滅法強く誰もが対戦を避けていたし、クジの当たりを引き当てる率も高かった。それが余計にリンを気味悪く思わせていたが。
しかし、小学校も低学年が終わる頃から次第にリンはカンが良い、だけでは説明しにくい力を発揮するようになっていった。
例えばこれは4年生の秋のこと。
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私は実はプリンが大好きだ。ヨーグルトより、苺のゼリーより、砂糖をまぶしたコッペパンよりも好きだ。ちなみにお母さんのカレーライスには負ける。あれは最強だからしかたない。
そして。今日はプリンが給食で出る日。前の月に配られた1ヶ月分のメニューを見ながら、もう前の夜からわくわくして眠れなかった。気づいたらぐっすりで朝だったけど。
登校しても朝からウキウキ。授業も良く憶えていない。
ポリーから何か呆れている雰囲気が伝わってくる。「どれだけ好きなんだ」とか呟いている。ふん。しょせん馬なんかにプリンの素晴らしさは分からないのよ。草でも食べてればいいわ。
そして、待ちに待った給食の時間が来た。配られたプレートを前に座る。目の前に並ぶ給食、でも目に入るのはプリンだけ。
「?」
あれ?何かおかしい。楽しみにしてたプリンだけど、前においてあるプリンは全然美味しそうに見えない。見た目は何も変じゃないのに。自分でも顔が曇るのがわかる。
「「「いただきます!」」」
みんなで声を合わせてから食べ始める。
給食の他のものは食べ終えた。けどプリンに手を付けられない。どうしよう。
となりに座るケンちゃんが目ざとくそれを見つけて、
「なんだ桜庭、食わないのか?んじゃ俺にくれ!」
あっ、と止める間もなく持っていかれてしまった。ケンちゃんは容器のシールを開けてクリーム色のプリンをスプーンですくい、ぱくっ、と大きな口に放り込む。
ガリッ
「痛たっ!」
ケンちゃんは口の中のものをお盆に吐き出した。そこにあったのは鈍色に光る短いが尖ったビスと、赤い血。ケンちゃんはみるみる涙目になる。私もおろおろ。
周りのクラスメートが騒ぎ出し、先生が飛んでくる。机に広がるプリンの残骸とビスと血を見て先生は真っ青。
「いったいどうしたの!?」
私とケンちゃんの向かいで見ていた子が担任に
「健二君がリンちゃんのプリンを取って食べちゃったの。そしたら何か入ってたの。」
と伝えた。
「え、まさかリンちゃん何か入れたの?」
いきなり疑われた。先生ひどい。
「いれてない」
「リンちゃん、蓋開けてないよ?」
続けて向かいの子が言ってくれる。ありがたい。がしかし、今はそれどころではない。
「異物混入?教頭に報告しなきゃ。後藤君も保健室に連れていかなきゃ。」
先生は呟くと、声を張り上げた。
「はーい、みんなプリンがまだの子は危ないから絶対食べないでね。給食係はプリンを全部集めて配膳台に持ってきて。先生は後藤君を保健室に連れていきます。すぐ戻ってくるからお願いね。」
と言って、プリンの容器とビスを持ちケンちゃんと出ていってしまう。
「リンちゃん、どうして釘入ってるって分かったのー?」
「なんとなく。」
ざわつくクラス。
「やっぱりあの子変よ。」「気持ち悪いわ。」「健二くんかわいそう」
元々気味悪く思われがちだったけど、更に怖がられるようになってしまった。まいったなあ。
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ポリーは考える。それは幸いにも未来が読める、というものではないようだ。しかし普通なら分からない物理量が見えているようだった。プリンに関しては組成の違いか重量の違いに無意識に不信感を抱いたんじゃないか、とポリーは推測していた。
どうもポリーの演算能力がリンに漏れている様子で、それはポリーにも想定外だった。そこまでポリーのセキュリティは甘くない。しかしそれ以外に原因が思いつかなかった。幼児の頃はそうでもなかった言語能力や計算能力も、今やリンたちの年齢の平均値よりかなり優れて来ているようだ。
リン自体が時空のアノマリー?ポリーは観察を続ける事にした。




