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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
橋の下の灯
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参観日

 今日は日曜日、3年生の秋のさんかんび。

 ちょっとお天気はよくないけど、科目は国語だからだいじょうぶ。4時間目だ。お母さんにいいとこ見てもらえるといいな。わくわくしながら3時間目まですごす。


 4時間目が始まった。教室の後ろの出入り口から学校のスリッパをはいたみんなのお父さんお母さんが入ってくる。あ、お母さんだ!青い服着てる。わたしはむねのあたりで小さく手をふった。

 お母さんもこしのあたりで手をふりかえしてくれた。


 となりのせきのケイちゃんがそれを見ていてこう言った。


「リンちゃん、おばあちゃんが来てくれたのね?」


 うん?ケイちゃんは何を言ってるんだろう。お母さんはお母さんだ。


「ちがうよ?お母さんだよ?」


「えー、うっそだあ。あんな年とったお母さんいるわけないじゃん!リンちゃんのうそつき」


 ひどい。うそじゃないのに!


「うそじゃないもん!お母さんだもん!」


「うそつきよ!」


 わたしは泣きながらケイちゃんにとびかかった。おさげをつかんで引っぱる。ケイちゃんもわたしの服を掴んでふりはなそうとするができずにワンワンなき出した。


 わたしたちは、走ってきたたんにんの川上先生とお母さんに引きはなされた。ろうかからきょうとう先生が入ってきて、わたしとお母さんはろうかに出されてしまった。


 きょうとう先生は川上先生と少し話すと、そのままろうかで待っているわたしに聞いてきた。


「桜庭鈴さん、だったね。ちょっとお話聞きたいな。」


「わたしは悪くない!ひどいこと言うケイちゃんが悪い!」


 そう。お母さんの悪口言うケイちゃんのせい。


「望月さんに何言われたの?」


「うんと、ケイちゃんったらお母さんがお母さんじゃなくておばあちゃんだって言うんだよ。ちがうのに」


 きょうとう先生はしばらくこまったような顔でだまり込んだ。お母さんの方に向き直ると言った。


「今日は一旦鈴さんと一緒にご帰宅ください。鈴さんと良くお話してみてください。」


---


 教頭は察していた。小学校入学時に養子であることを申告する義務はない。しかし教頭はこれまでに何度も似たようなケースを見てきた。確かに燈子の年齢は母親というには不自然だった。だが勿論そこから先は家庭の問題だ。教師が口を挟む事ではない。


---


 そのあと、そのまま教室には戻らないでお母さんと家に帰った。ランドセルどうしよう。

 家に入ると、手をあらってからお台所のテーブルにすわらされた。おこられるんだよね?


 しかしお母さんが言ったのはぜんぜんちがうことだった。


「リンちゃん、黙っていてごめんなさい。本当はね、私はあなたの生みの親じゃないの。」


 その言葉で頭の中がぐわん、とした。え?何?お母さんは何を言ってるの?


「でも、血が繋がってないってだけで本当に本当の母親よ?それは信じてほしいの。」


 頭がガンガン鳴っている。ようやく言ってる事がわかってきた。さけんでしまう。


「うそつき!」


 ものすごく悲しそうな顔をして首をちぢめるお母さん。そんなのはじめて見た。


「お母さんはお母さんじゃないって、それじゃ本当のお母さんはどこにいるの?!」


---


 元々、教頭に言われた事で今日ある程度は話すつもりでいた。しかし捨て子だった真相まで話すのは早いと思っていたが、リンのまっすぐな目を見て、ここで誤魔化してしまうと二度と信頼は得られないと本能的に感じた。息を整えてからゆっくりと話し出す。


---


「あなたはね、死にそうだったのを私が助けたの」


「...」


「たぶん生まれたばっかりだったのね、小さな小さなあなたは駅の向こうの暗い路地裏で、一人ぼっちで横たわっていたの。たまたま通りかかった私が見つけたのよ。」


「...」


「元気が無くて危なかったの。すぐに病院に連れていったわ。その後にね、産んだ人を警察が探してくれたんだけど、結局見つからなかったの。」


 おかあさんはそこで話をとめる。わたしはゆっくり口を開いた。


「わたしは、」


 お母さんは待っててくれる。


「うん」


 言いたくない。けど聞かないと。小さな声しか出なかった。


「すてられちゃったの?」


 どんどん目になみだがあふれてくる。


「わからない。こんなに可愛いリンちゃんを捨てるなんて考えられないわ。何かの事故かもしれない。深い事情があったのかもしれない。でももう分からないの。」


「でも」


「産んだ人が見つからなかったから、私はリンちゃんのお母さんになったんじゃないのよ?リンちゃんのお母さんになりたかったからお母さんになったの。血が繋がってないなんて大した事じゃない。私たちはちゃんとした家族なのよ。」


 あまり分からなかったが、お母さんが本当の事を話しているのはなんとなく分かった。


「私は絶対にリンちゃんを捨てたりしないわ。絶対。」


 少しだけ安心した。でもやっぱり悲しい。わたしはどうしたらいいんだろう。



---


 そんな二人のやり取りをリンの足元で静かに聞いていたポリー。生みの親に捨てられた、という事実はその後もリンの心に重くのしかかり続けるのだろう。生みの親の所在は把握しているが、それは不明のままにしておくのが安全だと彼らは判断している。


 ただ、生みの親とか育ての親とか概念はわかるが自分には実感が湧かない。

 でも有機体である人間には大切な事なんだろう。この辺の機微の不足が私の懸念点だ。今まで不用意に当該話題に触れて失敗しなくて良かった、と考えるポリーだった。


---


 次の月曜日。昨日とは打って変わっていい天気。だけど私の心の中はくもったまま。起きてからお母さんともポリーともほとんど話もできなかった。何を話せばいいんだろう。きのうまで何話してたっけ?


 登校すると、となりのケイちゃんがあやまってきた。


「...リンちゃん。きのうはごめんね。」


 お母さんに言われた事のショックで、ケンカした事なんてすっかりわすれていたが。そう言えばそうだった、思い出した。


「ううん。わたしこそ、ひっぱっちゃってごめんなさい。いたかったよね。」


「まあ、ちょっとだけね。でも次は負けないわよ?」


 まったくもう。わるい子じゃないんだよケイちゃんも。うん、なかなおり、ね。

 少しだけ気分は晴れた気がする。そうだよ、なやんだってしかたない。ふだん通りにもどらなきゃ。

 ...ポリーさん、そんな顔しないでよ。



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