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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
橋の下の灯
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迷子

 今日は、3年生になってはじめての遠足の日。

 もうすぐ夏休みで、それも楽しみ。


 朝起きたら、すごくいいお天気。やったね、とポリーの頭をぐりぐりする。ポリーはあいかわらずしずかだけど、もんくは言わないからだいじょうぶ。本当にイヤな時はにげるもん。


 おかあさんがおべんとうを作ってくれた。水とうもじゅんびしてもらい、リュックをせおって学校にでかけた。校庭にはもうみんな集まってる。わいわいがやがやとにぎやかだ。

 友だちとあいさつしたりおしゃべりしたり。そのうち先生からの集合の合図でバスに乗り込み出発した。

 今日の遠足はとなり町の小さな山のふもとの公園。動物園もあるんだって!楽しみ。


 さいしょはみんなで動物園。いろんな動物がいた。たぬきとかアライグマとか、キリンもいた。かわいかった。

 キリンにはエサやりもした。頭が近づいて来た時は、口が意外と大きくてちょっとこわかった。

 ケンちゃんなんかは「パンダとかライオンとかいねーのかあ」なんて言ってたけど。そんなのこんな小さいとこにいるわけないじゃない。ばかだよね。


 動物園から出ると、公園の広場でおべんとう。

 たまごやきとミートボールとタコさんウィンナーとミニトマト。あとふりかけのかかったごはん。おいしかった。


 おべんとうが終わると自由時間。走り回ったり遊具で遊んでみたり。そんな時、公園のすみに大きな黄色いひらひらがとんでた。


「ちょうちょ!」


 すごい、黄色くて大きなちょうちょさん。アゲハチョウかな?もっと近くで見たい!


 ひらひらとんでいくちょうちょを追いかけた。とぶのはおそいけど、こっちも下がでこぼこで早く走れない。公園から出ちゃってるけど後回し。

 そのうちちょうにはにげられた。そしてふと気づく。


「ちょうちょさんにげちゃった...あれ?ここどこ?」


 まわりは森。道がない。


「えー。みんなどこー?」


 これはまいご?どっちに行けば帰れるのかわからない。


「ポリー、どうしよう...」


「リン、大丈夫だ。こっちに行くぞ。」


 ポリーが足元に出てきて歩き出す。

 あわててついていったが、なかなか追いつけない。でもおくれちゃいけない。がんばって歩いた。


 そのままついて行くと、少し高いところに出た。わたしのせより少しひくいくらいの土のかべ。ポリーはぴょいっととびおりて、すたすた先に行ってしまう。


「こわい...でもポリーが行っちゃう、ついてかなきゃ」


 決死の思いで後ろ向きに手をかけてかべをおりる。少しすべって転んでしまい、ひざをすりむいてしまった。じわり、と血がにじむ。


「ポリーがいるんだからだいじょうぶ。いたくない、いたくない、いたくない」


 先を進むポリーを半なきで追いかける。さらにやぶをかき分けて進むと、急に目の前が開けた。公園にもどって来られたのだ。


 しげみから出てきたわたしを見つけて、クラスメイトの一人が大声をあげる。


「せんせー、リンちゃんいたー!」


---


 引率の若い女性教師が駆けつける。リンは膝を擦りむき、服は土と葉っぱだらけだ。安心したからか、その場にへたり込む。

 リンが出てきた方向を見て教師は首をかしげる。


「いったいどこ行ってたの、リンちゃん。こっちに道なんて無いでしょう?」


 密に藪が茂っていて、大人だってとても入ろうなんて思わないようなところだ。


「ちょうちょがいたの。でも道わからなくなっちゃったの。」


「そう、でも無事に帰ってこられて良かったわ。」


 これで大怪我だったら責任問題だ。まだまだ新人の教師は背筋を冷やしていた。


 がやがやと周りで見ていた子どもたち、特に男の子らはちょっと興奮していた。クラスの男児の一人、健二などは


「すげー、あんなとこ行けるなんて!たんけんかだな桜庭は。」


 と感心しきりだった。土だらけなのも格好良く見えた。もっともリンが泣いてたら馬鹿にしたんだろうけども。


 教師はとりあえずリンを公園のトイレに連れていき、服の土埃と葉っぱを払い、傷口を水道水で洗い流す。学校から持参の救急キットから消毒液を取り出し、絆創膏を貼って膝の応急処置をした。リンは泣く事こそ無かったが、ずっと俯いたままだった。バスの中でも無言だった。


 そして帰校・解散後。監督不行届で教頭から大目玉を食らう若い教師であった。


---


 帰宅したリンを迎えた燈子。その汚れた服と膝の絆創膏を見て驚く。


「ええっ、リンちゃん、いったいどうしたの、その傷?」


「ちょうちょ追いかけたらまよってころんだ。」


「まあまあ、痛かったでしょう。」


 リンは本音を吐露するのが怖いのか、言い淀む。


「...ちょっと。」


「怖かったわね。」


「...ちょっとだけ」


 燈子はリンの頭を優しくぽんぽん叩いた。


「頑張ったのね、偉いわ。でも汚れちゃったわね。すぐお風呂にしましょう。」


 燈子といっしょに風呂に入るリン。早めの夕飯を取ると疲れたのか、いつものようにポリーに話しかける事はせず、すぐに眠ってしまった。


 ポリーは部屋の隅で、眠るリンを静かに見ていた。

 今までは過保護だ、と相棒に指摘されていたので若干の負傷は許容するよう行動を改めたのだが。リンの様子を見ている限り私が突き放しているように見えたのだろうか、これはこれで間違いらしい。

 私には人間の心の機微、というやつが解らない。


 思い悩む馬だった。




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