わかってた
次の日。NISCから養護施設にリン保護の連絡が入った。施設として本来外泊は許可できない事だったが、橋でリンが警察に包囲される映像は職員も見ていたし、NISCなんて身近ではない組織からの連絡なんて半信半疑だったが、それが本物の政府組織である事は通信の証明書が示していたので特例として黙認する事となった。
リン保護、というのは半分本当で半分嘘である。リンはまだ榊の別荘にいた。ただし別荘地は情報省により閉鎖され、周囲を甲田が手配した警官が囲んでいる。リンに接触できていたのは榊の他には甲田だけだった。
ポリーらが未来人である事を教えられて当初は半信半疑だった甲田だが、一連のメモリアに対する現人類をはるかに超えた情報操作能力を見て、それを信じるしかなかった。その情報は内閣に持ち帰られ、第一級の秘匿事項として記録された。アメリカでのエリア51のような扱いである。エリア51のように秘密兵器の開発を隠蔽するための欺瞞情報とはまた趣は異なるが。
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その日の午後は晴れていた。榊の別荘、窓から日差しの差し込む寝室のベッドに座るリン。その足元にポリーとイッヌが座っている。
「リン、私とイッヌはここから去らなければならない。」
リンは、目を少しだけ見開くが、しかし取り乱す事なくうなずいた。
「うん、判ってたわ。最近、頭の中がとても広くて怖いの。色々な知識が入って来て、色々なものの裏側が良く見える。それらを何故か理解できる。これってポリーの知識よね。」
「その通りだ。リンが5才の時に私と通信経路を繋いだのだが、少しずつ情報処理能力が漏洩していたようだ。ここに来て臨界点を超えたのだろう、急峻な情報移動が発生しつつある。」
「とっても不味いのよね?」
「そうだ。このまま力が増えれば、生命維持にも支障があるし、リンの能力は今後もメモリアコーポレーションみたいな輩から狙われる事になるだろう。」
「ポリーも生まれない事になるのね。」
驚愕が二匹を包む。
「そこまで伝わっていたか。そうだ、私は君の遠い遠い子孫だ。しかしこのまま一緒にいたら、遠くない未来に次元格子の負荷でリンは死ぬ可能性が高い。私の家系も断絶してしまう。」
「理解できるよ。」
「既に移動した能力は、脳に書き込まれているわけではないので削除ができない。なのでこれ以上能力が上昇する前に、なるべく早く我々はリンから離れなければならない。」
リンの目から涙が溢れる。
「分かる。分かるけどお別れは辛いよ。分かりたくなかったよ。」
「私には肉体の感情は無いが、人格Threadが軋んでいる。私も別れが悲しいようだ。」
リンは床に跪き、ポリーとイッヌのヌイグルミを抱き寄せた。ぼろぼろ涙を流す。
「一刻の猶予もない。お別れだリン。後の事は榊に任せてあるから安心しろ。元気で過ごせよ。毎日ちゃんと歯を磨けよ。」
「ポリーもお腹出して寝ちゃダメだよ...」
リンの腕の中から、ふわっとポリーとイッヌがきえた。
「うえーん...」
リンは、この時ばかりは歳相応に泣くのだった。




