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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
暴走
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返却

 イッヌは榊の別荘にリンと留まっているポリーに状況を転送した。今後のリンの身柄を保全するためにメモリアの排除は最優先だ。イッヌはこの犯罪記録をNISCに流してメモリアを処分してもらう事を提案したが、リンはそれに反対した。


「それじゃ、ダメだよ」


 ベッドから上半身を起こしたリンは、まだ首損傷の感触が残っているようで、ぎこちない口調でそう言った。ポリーは


「リン、それは何故だ?今や最大の障害はメモリアだ。国家権力に対処させるのが効率的だと思うのだが。」


「ポリー、イッヌ、一人ずつちゃんと、記憶を盗まれた人たちに返さないと。」


「いや、記憶はコピーされただけで無くなってはいないぞ?」


「そうかもしれないけど、『返してもらった』って感じてもらうのと、知らない所で処分されるのとじゃ全然違うよ。思い出に所有者だけが解除できる鍵をかけてからブロックチェーンで改ざん不可能にして、みんなに返すべきだよ。」


「しかしそれではメモリアのリンへの追求が止まるとは...」


「大丈夫、そうなれば皆メモリアから離れる。私の事どころじゃなくなるよ。その後は榊さんたちに任せよう。」


 ポリーとイッヌは顔を見合わせては沈黙した。なんて事だ。中学生の思考じゃない。一月前にはブロックチェーンどころかネットワークの仕組みすら知らなかったのに。

 明らかにポリーらの能力がリンへと還流する速度が上がってきている。ポリーにはリンに重なった次元格子が見えた。もう否定しようがない、リンとポリーの出会い自体がクランチなのだ。

 このままでは、仮にメモリアが排除されても、リンの力を狙う別の敵性存在が現れるだろう。これ以上リンと共にいて能力を委譲するわけにはいかない。


「わかった、それではメモリアにある商品全てに鍵をかけて、元の所有者に転送しよう。」


---


 その夜、まだ宵の口。ほとんどの市民のインプラントに最優先メッセージが届いた。

 ある人は夕食中、ある人は会社からの帰り道。家で受験勉強をしている高校生、娯楽番組を見ている主婦。彼らは一斉にメッセージを受け取った。


「メモリアコーポレーションにより、あなたの以下の記憶が同意なく収集・売買されていました。ご確認ください。添付した記憶データはあなた以外に開封できません。また転送や共有する事もできません。ご了承ください。」


 添付されたデータは、例えばある人には;


『あなたの初恋:977,500円』

『あなたの結婚式:115,000円』


 別の人のところには;


『南極クルーズ:517,500円』

『食道がん摘出:345,000円』


 といったようなタイトルとなっている。ずいぶん手の混んだ迷惑メッセージだ、と感じた人が大多数だったが、削除しようとしても削除できない。仕方なく開いてみた人、主にネットリテラシーに欠ける若い人が多かったが、彼らは眼前に画像が展開するのを見た。それは確かに自分の経験したものだった!


 彼らは記憶売買についてSNSに書き込む。


「子供の頃の記憶が入っていたぞ」

「私の死んだ娘の記憶が売られていた...」

「記憶泥棒!」

「これは精神的レイプだ」


 それらの書き込みを見て、自分に来た通知を疑っていた人たちもこぞって記憶データを確かめる。全て真実だった。ネットにはメモリアに対する非難が広がっていく。


 メモリアに保管されていた元データは、イッヌにより元の所有者以外は閲覧できないよう鍵がかけられた。そしてデータコンテナはブロックチェーン化され、たとえメモリアであっても削除できないようにして証拠の保全がなされている。

 遅まきながら事態に気づいた森ら重役は、記憶データを保管するサーバーを停止し、全記録の即時削除を命令したが既に遅かった。メモリアの行為は全世界に知れ渡る事になった。


 加えて、イッヌは記憶を購入した人物と購入した記憶のリストを世界最大のSNSに匿名で公開した。


 購入者リストには、誰もが知る富裕層、政治家などが名を連ねていた。

 特に衝撃的だったのは、市長が「殺人」を1,000万円で購入していた事実。


 森は緊急会見を開き、


「これはサイバーテロです。流出したデータは創作物で信憑性はありません、データは即時破棄してください。」


と力説したが、誰も信じる事はない。それはそうだ、明らかに自分の体験が入っていたのだから。森の会見は、メモリア批判に更なる燃料を投下するだけだった。


 そして、イッヌはさらにとどめとして、市内の監視カメラを経由したスキャン波が夕方の広範囲な頭痛による混乱の原因である事も波形データ付きで暴露した。 メモリアは否定したが、もう誰も信じていなかった。結局ポリースキャナーはメモリアの自爆装置になってしまったのだった。



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