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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
暴走
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絨毯爆撃

 夕方。インプラントスキャナー改の稼働準備が完了した。


 森は即時使用を命じた。市内全域の監視カメラからスキャン波が放出される。それは静かに、だが力強く町に広がっていった。


 広尾がエコーを量子スーパーコンピューターで解析する。複数の異常反応があり、それを該当するカメラ画像と照合して確認していく。


 大学などの量子コンピューターの使用施設が数十件。これは除外していいだろう。

 野良猫が64匹。何故だが理由はわからない。猫は神だからなのか、広尾は某宗教の黒い看板を思い出す。


 そして元市長宅。ここだけ一般人(とは言い難いが)の住宅だった。

 ここはイッヌが元市長の記憶を検索した場所。ビンゴだった。


 森は、すぐさま市長に連絡を取ろうとしたが、しかし父親から半分脅迫のような非常事態宣言の取り下げ要求を受けた市長は、再度の記者会見に入ってしまっていた。


「午前中に発令した非常事態宣言ですが、誤報である事がわかりました。大変申し訳ありません、宣言は解除とさせていただきます。」


 放送でこれを見た森は激怒した。


「なんだと!くそっ、もう市長はいい。田中、元市長邸を急襲しろ!」


 セキュリティ担当役員は、以前被疑者捕縛に失敗しているのにそれは無駄な行動だろ、と思ったが従うしか無かった。チームは組織済みだ。数台の車両に分乗して元市長宅に向かう。


 勿論、とっくに榊もイッヌも去った後だ。予想通りの結果に田中は肩をすくめる。



---


 その頃、スキャン波を浴びた市内で騒ぎが持ち上がっていた。


 市民の38%が強い頭痛を訴え、中には激痛のあまり動けなくなる者もいた。自動運転中の自動車は、乗員の異常を検知してあちこちで急停車。主要道は大混乱に陥った。


 また動物の異常行動もおきていた。犬が一斉に吠える、大量のカラスが一斉に飛び回る、猫は集会で鳴きまくる、普段は早朝にしか現れない繁華街のネズミが集団で路上を走りまわり、一部はその場で口から泡を吹いて倒れてもいた。


 医療機器への干渉も頻発した。ペースメーカー誤作動で3名が搬送。主要病院のICUの一部では機器の誤動作で緊急停止。死者も出始めた。


 かろうじてSNSに書き込んだり市外の知人に連絡したりした市民によりS市の外にも事態が知られ始めたが、勿論原因はわからない。何かの疫病にしては急すぎる。


---


 スキャンで位置がバレてしまったイッヌ。


「いやーびっくりした。まさかこんな古代の技術で検知されるなんて。絨毯爆撃はあなどれないなあ。まあ銃を持つ人間だってたまには棍棒に負けるし。うん仕方ない。」


 笑い飛ばすイッヌだが、しかし彼はこれを好機と捉えた。NISCを(たぶん)味方に付けた今、障害はメモリア社だけだ。直接物理力の行使はできないが、メモリアの弱みを握って何か対策する事はできるんじゃないだろうか。


 スキャナーに検知されたイッヌは、それを逆に利用してメモリアへの侵入を試みた。スキャン波の発信元のカメラから回線に潜り込む。21世紀のコンピューターセキュリティなど、イッヌらにとっては無いも同然、突破したなどという認識も無かった。家の入口に玄関マットがあったな、程度の感覚。


 まずはスキャン波を強制停止した。これは生物の脳に害がある。市民への被害はここで収まった。


 物理力がほぼ無いかわりに情報能力にリソースを振っている複製体は、メモリアの記録を社員のメールから財務から社外秘データまで全て吸い上げた。


「こりゃ酷い。」


 メモリア社はインプラントの定期検診時に密かに抜き出した脳の記憶データを、ほぼ全市民の分保管していた。これらから個人データを除去して再構成、物語のような形式にして商品化していた。

 それらにはタグが付けられていた。わかりやすい所では「青春」「初恋」「恋愛」「旅行」「結婚式」など。プレミアム商品としては「麻薬摂取」「性行為」「臨死体験」「強姦」「殺人」など犯罪者から収拾したようなものも混ざるブラックなものも。

 人格のコピーを厳に禁じているイッヌたちにとって、それはタブーすれすれの領域だった。長く長く生きてきて大抵の事には慣れっこのイッヌだったが、自身を構成するデータストリームに初めて見る波形を検知していた。


 それは「怒り」と呼ばれる、古い人類の感情のようだった。ふむ、私も結局は人類なんだなあ、と考えるイッヌ。





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