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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
暴走
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緊急会見

 その日の昼前。市が緊急会見を開いた。市長の野島が市役所正面玄関に急遽こしらえられた壇上に登る。


「えーみなさんおはようございます、市長の野島です。さて今早朝に市内M川で事件があった事をご存知の方も多いと思います。あれについて市の見解と非常事態の宣言をいたします。」


 会見の連絡を受けた地元新聞社やテレビ局、もちろん篠原もカメラを向けている。その他一般民衆もかなり多く集まっている。不穏な文言にざわめいている。


「今朝の事案は、凶悪なテロリストによる電脳犯罪の取り締まりでした。被疑者は市内中学校に通学する仮名Sで、彼女には脳インプラントへのハッキング、及び記憶と認識改ざんの疑いがあり、電脳テロ対策法違反容疑がかけられています。」


 どよめきが起こった。皆、今朝の配信でリンを見ている。とてもそんな子には見えなかったからだ。記者からの質問が殺到するが、それを抑えて市長は続ける。


「県警によれば、現在被疑者は逃走中との事です。市ではこの事態に鑑み、危険分子である被疑者を災害に準ずるものとして非常事態を宣言します。これは被疑者確保まで継続されます。市民の皆さんにおいては不要不急の外出を避け、極力室内に避難しているようお願いいたします。」


 SNSでは、あんな子がそんなこと出来るわけが無いという論調がまだまだ主力だったが、少しずつ「見た目に騙されていて実は危険な子なのでは?」という意見も増え始めていた。特に突入した機動隊隊員が不自然に動きを止めた事が問題視されている。


 しかしその頃にはリンのおおよその素性を掴んでいた篠原はそんな意見には与しない。孤児ではあるが、ごく普通の少女だ。犯罪歴など何も出てこないし、電脳について特筆すべき能力も無さそうだった。


 また、警察の発表がまだ何も無いにも関わらず、市が独自に緊急事態を宣言するのにも違和感があった。県警は市の管轄下にはない、逆もそうだ。上部組織ではない市が県警との情報共有はまだできていないはずだ。

 そもそも法律違反の容疑をかけるのは市の権限ではないだろう。それなのに無視して物事を進めるのはいかにも変だ。


 何かある、と長年役人の汚職や不祥事を追ってきた篠原にはピンと来るものがあった。篠原は声を張り上げる。


「市長!Sさんについてですが...」


 篠原の質問は途中で遮られる。


「申し訳ありませんが、現在大変立て込んでおり、質問はまたの機会とさせてください。夕方に再度会見を行う予定です。」


 逃げられた。ますます怪しむ篠原。裏がある、と確信を持つ。


---


 この発表は県警には寝耳に水だった。


 リンが未成年のために基本的に名前を明かしての公開捜査はできない。しかし重大事件の場合は別で、速やかな解決による社会的な利益がリン個人の不利益に優ると判断、指名手配の準備を始めていた。これは捜査部署だけでは決められず、少年部門との協議を必要とするためどうしても手続きに時間がかかる。それでも午後一番には用意が整う算段だった。逮捕状は養護施設に踏み込む際に既に取ってある。


 指名手配してしまえば市の防犯カメラ映像を許諾なしに閲覧可能になる。簡単に外出はできなくなるし、鉄道などでの逃走も困難だ。逃げにくくなれば追跡もやりやすくなるだろう。いくら脳の操作が可能でも、人間なら食べなければ生きていけない。いずれ炙り出せるはずだった。


 そこに県警に対して何の相談も無かった市長の発表。警察が後出しで指名手配を行えば、市との協調が取れていない事を追求される事になるだろう。S市は県警の上部組織ではなく命令権も連携する義務もないが、県警はH県の公安委員会の下にありその人員を選出しているのは県だ。市が直接関係ないからといって行政を無視はできない。


 県警上層部内では危急につき手配を強行すべきだという意見も多かったが、なるべく実績を毀損する火種は少なくしたい本部長は立場の保全にこだわった。結果、その日のうちの指名手配は見送られ、メモリア社の目論見通りの時間稼ぎに成功していた。





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