暴発
メモリア社の会議室。集まっている、というよりもう常駐していると言っていい重役の面々にセキュリティ担当役員の田中が報告した。
「警察による桜庭鈴捕縛は失敗したようです。県警から市に入った情報によれば現在対象は行方不明です。」
「馬鹿な。小娘ひとりを県警総出で捕らえられなかっただと?」
「たまたま現場を報道していた配信がありました。不自然に突入が中断した直後男が対象を連れて現場を立ち去っています。」
いらいらが極限に達している森は声を荒らげた。
「誰だそれはっ!」
「不明です。マスコミも車両を見失っています。対象も市内どこの病院にも収容された記録がありません。」
森は焦りに焦っていた。警察が対象を確保していれば、あとは抱き込んだ政治家や官僚を操作していくらでももみ消す事ができるのに。行方不明だなんて。
そんな森に技術担当役員の室戸が進言した。
「社長、一つ提案があります。」
「なんだ!」
「基礎研の広尾が、対象の脳波を検知できるかもしれないと報告してきました。」
森は突然の内容に、うさんくさそうに目を向けた。
「どうやってだ?」
室戸は続ける。
「市内に配置してあるインプラントスキャナーのファームウェアに手を加えて、特異な脳波を検出できるとの事です。防犯カメラ名目のあれですね。」
森はここ数日で一番目を輝かせた。
「それは本当なのか。警察よりも先に発見できるなら最高だ。すぐ実行しろ。」
しかし室戸は発言を続ける。
「お待ちください。まずスキャナーの改造は急造です。検出率は多めに見積もっても10%程度との事です。」
十分ではないが、この状況では悪くない数字だと森は思った。
「さらに、スキャンする送信波がインプラントに与える影響が不明です。さきほど完成したばかりで、実物で検証できていません。」
森は室戸を睨む。
「いつなら稼働できる?」
「広尾によれば一週間ほどあれば、との事です。」
森は叫んだ。
「ふざけるな、その頃には全て終わってるわ!検証なぞいらん、すぐに使え!検証なしならいつ稼働できる?」
「今夕方には。」
「よし、急ぎ進めろ。こうなってしまったら、警察より先になんとしても小娘を捉えなければならん。県警の動きを妨害して時間稼ぎをしよう。市長に連絡だ。」
セキュリティ担当役員の田中は、状況に危うさを覚えていた。対応が後手に回っているし場当たり的すぎる。そもそも自分たちで捉えるなら警察に通報なんかしちゃいけなかっただろうに。森は山程の判断ミスをしてきた、と考えていた。
もう逃げ出したかったが、拉致を実行しかけた自分はもう一蓮托生だった。メモリアの暗部を統括している私は最も罪が重くなるのだろう。不本意ながら、そのスキャナーとやらに賭けるしかなかった。
「市長に撹乱情報を流布させろ。今こそヤツの使い所だ。」




