拡散
少し遡って撮影中の篠原。
リンを囲む警察、その一部始終が配信されていた。閲覧数はぐんぐん伸びている。パブネット始まって以来の同時視聴者数になるのは確実だった。
カメラがひょいひょい飛び跳ねるリンを映す。
「少女がなにか不思議な動きをしています。何かを避けている?」
さすがに対岸からでは麻酔矢までは写っていない。
そこに盾と警棒を持った機動隊員が走り寄った。
「あ、今、重装備の機動隊員が突入しました!小さな少女ひとりに何を考えているのでしょうか!あり得ない光景が目の前にあります!」
同時接続数は、早朝にも関わらず5万を超えた。そこで止まる気配は無く、みるみる増え続ける。
「こんな少女一人に武装した機動隊が出てくるなど、許されるのでしょうか!あれ、何故か隊員が急に足を止めまし...ああ、盾が少女に激突したようです!なんて事...少女が倒れ込みます。あああ、大丈夫でしょうか?」
配信のコメント欄は、警察への非難で絨毯爆撃されていた。次第に海外からのコメントも混ざり始める。仮に少女が犯罪者だったとしても、これは酷い絵面だった。興奮で声が高くなってきた篠原は実況を続ける。
「倒れた少女の元に男が一人かけよります。えーっと、何か話しているようですが、誰もいませんね、いったい誰と会話しているのでしょうか。少女は全く動きません。あ、男が立ち去りました。」
篠原は配信しているのも忘れてやきもきしてしまう。放置していいのか、誰も助けに向かわないのか。すると、すぐに男が担架を持った警官と戻ってきた。
「担架を持った警官が来ました。少女は搬送されるようです。一安心なのでしょうか。しかしシールドは首に当たったように見えました。心配です、無事であれば良いのですが」
リンは黒い遮蔽車に乗せられる。
「少女が載せられた黒い車両が動き出しました。ん?救急車ではないですね、サイレンも鳴らしていません。病院に行くのではない?」
コメント欄も騒然とする。
「車を追います。上田君、対岸に連絡して動き出した黒い車を追いかけさせて!私たちはもう一度警察に凸るわよ!」
篠原たちはM川の対岸に向かう。ただこの混乱の中で機動隊にインタビューができるわけも無かったし、そして仮にインタビューできたとしても誰も事態の推移なんて把握していなかったので、どちらにしても無駄なのだった。唯一少しだけ状況を知る甲田は、既に現場を離脱、一路官邸に向かっていた。




