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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
夜明け前
44/63

包囲

 橋に到着したリン。そのまま堤防から橋脚のたもとに駆け下りる。

 周囲は真っ暗だ。イッヌのナビゲーションで警察を撒く事に成功していたが、パトカーのサイレンの音はすぐ近くだ。堤防の上に警察車両が続々詰めかける。黒い遮蔽車両が前にバリケードを作る。サーチライトが橋脚を照らす。

 脳波保護・インプラント保護ヘルメット装着の機動隊員が防弾シールドを構えて堤防の階段を抑えた。麻酔銃を装備した狙撃班はその背後、車両の脇でライフルを構えている。


 リンは結局囲まれてしまった。養護施設に迷惑をかけない、という目論見通りではあるものの、さすがにちょっと怖い。まさかこんな大所帯で来るとは。大怪盗になったような気分だ。


 小さな中学生女子を相手にしているとは思えない陣容で橋は騒然としている。警察は橋を通行止めにして、早朝とはいえ増え始めた車や通行人を規制する。しかし川の見える場所を全て封鎖する事は難しい。何か派手な事件が起こっている、SNSなどで噂になり始めていた。


 警察に遅れて橋の反対側に到着した篠原が、望遠でリンの撮影を始めた。上田はやはり反対側の堤防の上から別のカメラで俯角をおさえている。夜明けはまだ1時間は先だが、既に周囲は薄明で明るくなりだしていて撮影には十分な光量があった。子供一人を機動隊が包囲している、異様な構図だった。


「皆さん、ご覧ください。ここはH県S市、M川です。警察が少女を包囲しています。フィクションではありません、ライブ映像です!」


 早朝にも関わらず、視聴数は跳ね上がり始めていた。


「いったい何が起こっているのでしょうか!どうみても凶悪犯には見えません。対岸には銃を構えた警官も見えます。」


 別のメンバーからプロンプトが出される。それを見て篠原は続ける。


「あ、今情報が入りました。囲まれているのは市内在住のSさん12歳との事です。ごく普通の中学生に見えます。」


 メンバーの調査力はパブネット最大の武器だ。


「今のところ動きは見えませんが、中学生に銃を向けるなんて。こんな事が許されるのでしょうか?彼女は何をやったのでしょうか。更なる情報が待たれます。」


 別メンバーが裏を取るために別動している。いずれ何か分かるだろう。


---


 成り行きを甲田とは別の遮蔽車両からモニターごしに追いかける機動隊隊長は焦っていた。衆目にさらされ始めているこの状況は非常にまずい。さっさと被疑者を確保するか、今日は諦めて撤退するか。

 しかし本部長の立場が危うくなっている以上、ここで自分が重ねて失敗すれば、あのわかりやすく権力欲まみれの本部長は本官に責任をなすり付けるかもしれない。冗談じゃない。


 まだ甲田からの指示はない。しかしそんなもの待ってはいられなかった。早期決着を決意して指示を飛ばす。


「狙撃手、各個の判断で射撃開始。対脳波・電磁波隊、射撃を確認して突入しろ。」




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