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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
夜明け前
45/63

元次官

 その頃、榊も橋に到着していた。

 土手には見覚えのある黒い車両が止まっている。あれは自分がまだ現役の時に計画していた、電脳テロ対策用の電磁波遮蔽車だ。あれが出張っているという事は情報省、もしくはNISCが介入している事は確定だ。


 複数の省庁が入り乱れる現場の混乱で身元確認がいい加減な事を利用して、榊は情報省の名前を出して電磁波遮蔽車に近づき、脇にいた防災服姿の男に話しかける。いかにもポーズですよと言わんばかりの綺麗にプレスされ糊の効いた防災服。なら警官ではなく官僚のはずだ。


「私は元情報省の榊だ。責任者と話がしたい。」


「榊元次官!何故ここに?少々お待ちください!」


 若いメンバーだったが、まだ引退してから5年、榊の顔は知っていたらしい。遮蔽車から別の防災服を着た男が出てきた。


「榊さん!何故ここに?」


 車から出てきたのは元部下の甲田だった。彼は情報省元上司の榊の顔を見て驚いた。甲田が今の地位にいるのはひとえに榊のおかげと言っていい。ニューロゲート事件の頃からの付き合いで、当時手際よく旧メモリア社のあれやこれやを処理した手際を榊に買われ、そのまま一緒に出世していったのだった。


「甲田が来ていたのか。NISCのトップが直々に現場に出ているとは、それほどの事態なんだな?」


「...いくら榊さんと言えども、今は部外者です。申し訳ありませんがお引き取りください。」


 そう言われるのは予想していた。当然だな。


「私は情報提供者としてここに来た。あの子は桜庭鈴だな?」


 驚愕する甲田。


「何故それを...どこまでご存知なんですか?」


「彼女がインプラントを介さずに他人の記憶を現出させる能力があるのは知っている。」(何せ自分で見たからな。)


 情報がどこまで知られているかわからない甲田は言葉を出せない。


「鈴君を捕縛してはならない。そんな事をして混乱させたら、どんな事態になるかわからないほど未知の能力だ。相手を中学生と思わず、対等の人格として対話に持ち込むべきだ。」


「そんな事できるんですか?警察包囲の事前察知といい、暗闇で無灯火自転車暴走して包囲突破といい、ちょっとした化け物みたいですが」


「私は彼女と話した事がある。理性的な良い子だったよ。協力者として私に話をさせてもらえないか?」


 話した事がある!?なんて事だ、どこまで関与してるんだこの人は。尊敬していた元上司は、思っていたよりとんでもない人物だったのかもしれない。


 しかし職務上部外者の介入を許可出来るわけがない。出来るわけはないが、しかし目の前にいるのは長年信頼し師とも仰いできた榊だ。

 数秒逡巡する甲田。しかし後手後手に回っている現状、穏便に解決できる可能性がある榊の策に飛びつくしかなかった。


「わかりました、榊さんなら大丈夫かもしれません。私の職権でアドバイザーとして臨時任用します。」


「ありがとう、甲田君。また一緒できて嬉しいよ。」


 微笑む榊の顔を見て、この方は相変わらず人たらしだ、甲田は防災帽の下で小さくうなずく。



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