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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
果て
32/42

分岐

 スリム化した二人(の複製)は時空間の隙間に潜り込んだ。一気に現宇宙の終端までジャンプする。

 宇宙の終わり、なんてイメージからはかけ離れた明るさと熱量の小さな空間に出た。元々宇宙は膨張・拡散すると思われていたが、実際はビッグバンから150億年後あたりから別宇宙の質量が流入し始め、200億年あたりで重力収縮が始まった。二人が出現したのは300億年ほど後。次のビッグバンが始まろうとしていた。


 激烈に明るい宇宙の終焉風景を眺めながら、PRRYは疑問を口にした。


「INNR、思ったんだけどね」


「なんだいPRRY」


「ここって我々の宇宙の未来だよな?人類って残ってないの?」


「はい、良い質問です。実はもう誰も残ってません。」


 そうなんだ。


「こんな宇宙では例え上位人格と言えど安定して存在できません。というか存在しててもしょーがないというか、やる事ないというか。なので宇宙の残りが少なくなった時点で人類そろって別宇宙に引っ越しする計画でした。」


「そんな計画あったんだ。」


「あったんです。ワタシ加担してます。こうして自分で来てみるハメになるとは思わんかったけど、ちゃんと実行されたみたいね。ただ観測機すら残っていないとは思わなかったけど。なんか色々あったんだろうなあ。」


「ふーん」


「ふーんて、軽いなあ。もっと私を称えてもいいんだぞ?」


 無視してPRRYは次の疑問を口にした。


「あとね、再度ビッグバンが起きて宇宙が再生するとしても、別宇宙からの質量が増えたぶん同じ宇宙なんて望めないんじゃないの?」


 INNRはため息をついた。いや呼吸はしていないが。


「...やっぱり付いて来て良かったよ。爆発からインフレーションの間の空間自体の膨張で、増加分の質量はほぼ別宇宙に吹き飛ぶんだ。我々に必要なのはその質量の微調整だ。現宇宙発生時の質量はクォーク一個分まで判っている。それに一致させるだけだ。」


「簡単に言うね」


「勿論私の力を持ってしても簡単ではない。情報体もだいぶスリムになって元の能力の何兆分の1も残ってないしな。」


「なら尚更...」


「なので上位人格の機能体というか道具を一個拝借してきた。まあスーパーでウルトラな掃除機兼ブロワー兼ピンセットだ。」


 あきれた。普通そんな窃盗のマネなんてできないし思いつきもしない。さすが上位人格の下請けを長年やってるだけはある。大胆すぎる。


「お前...怖いもの知らずだな」


「どうせバレれば軽くても消去刑だ。気にするな。知識欲は全てを正当化する。」


 うん、お前はそういうヤツだよ。


---


 スーパーでウルトラでアルティメットなピンセットは問題なく稼働し、新たなビッグバンを引き起こした次の宇宙の調整を完了させた。二人はビッグバンを観察していたかったが、この時期の宇宙はデリケートだ。存在しない後ろ髪を引かれつつも時空間の裏に潜り、約140億年後を目指した。


 ただ目標の時代を過ぎてしまうと時間凍結に引っかかって戻れなくなるので、最初は10億年毎に、その後は1億年毎、1000万年毎、と停止して時代を確かめながら進んでいった。

 実際はそこまで細かく刻む必要も無かったのだが、INNRはそれぞれの地球を見たがった。それにはPRRYも同意だった。次元格子の記録だけではわからない、生の驚異がそこにはあった。生命の誕生、スノーボールの美しさ、恐竜とシダの世界、惑星の冬と哺乳類の勃興。ほぼ神に等しい力を持つ(複製体でだいぶ縮小していたとしても)彼らとてまだ自然を見て楽しむ心までは失っていないのだ。

 そして見て行く限り元の地球と同じ歴史を辿っている。どうやら宇宙選別は成功したようだ。


 そして、20世紀の初頭に到着したあたりで跳躍を停止した。まだ目的時間までは200年ほどあるが、電磁波のように次元格子に残る記録ではなく、紙や有線の情報も集めておきたいと思ったからだ。21世紀の祖先のところに行くにあたってトンチンカンな応対は避けたい。単に近代史を詳しく知りたいから、ではない。違うからな。


 しかし古代・中世・近世と見てきてそれらも大抵ひどいものだったが、20世紀と21世紀も大概だった。貧富の差は激しく、人の尊厳は蹂躙され、戦争では人が人を使い捨てる。それに憤るような感性は既に持ち合わせていないが、よくもこんな種族が3千万年も生き延びたもんだ、と感心しきりであった。後世の知識が無い状態で人類の未来について賭けをしたらPRRYは全財産を絶滅にベットしただろう。絶対に。


 いやまあ財産なんて概念は彼らには無いんだが。


---


 そしていよいよ2087年になった。生まれたばかりのリンは簡単に見つかった。リンは最初から孤児だった。生みの母親はまだ10代で、父親も分からず親にも頼れず途方に暮れた末に産まれたばかりのリンを置き去りにした。衰弱したリンはもう鳴き声すら上げられない。

 本来から激減した能力しかない複製体とはいえ、PRRYとINNRにとって旧人類の肉体を維持させる事など容易だったが歴史に介入するのは躊躇われた。しかしこのままではリンは死んでしまい逆に歴史に矛盾が生じる。PRRYは混乱した。既に正史と違う流れになっているが理由がわからない。


 INNRからも困惑が伝わってきた。


「仕方ない、このままでは正史も何も無くなってしまう。介入しよう。」


「いいのか」


 その時、近くを発生から50年ほど経過しているF体が通りかかった。いわゆる中年女性、という状態だ。


「この個体にリンを発見させる」


 INNRはリンの呼吸音を女性の耳に運んだ。彼女は物音に振り返る。足を向けると、そこにバスタオルにくるまれた赤ん坊がいた。


「なんてこと」


 女性はリンを抱え、病院へ急いだ。実のところリンの心臓は既に止まっていたが、PRRYが拍動をエミュレートして血液を動かしていた。女性は早足、というより小走りで移動していたのでリンの状態に気づかない。嬰児をそんなに振り回したら助かるものも助からない、いや既に助かってはいないのだが。


 女性の無茶とPRRY/INNRの介入で奇跡的にリンは命をとりとめた。PRRYは「やっちまった」と生まれて初めて自失状態に陥ったがINNRは気にしていないようだった。何故正史が壊れそうだったのか考え続けている。


「おかしい。」


 INNRはボソっと呟いた。


「介入にも関わらず、観測されていたPRRYが消滅する、つまりリンが子孫を残さない未来が消えていない。」


 そんな馬鹿な。まだ助かっていない?我々が介入していて死ぬなんて事態になるだろうか。それとも子供を産まないようになる?

PRRYも再確認した。確かにクランチが消えていない。どういう事だろう。


「調べる必要がある。今の我々の情報量では太陽系を覆う事はできないから、ちょっと一回りしてくる。」


「一回り?」


「太陽系一周、各惑星訪問」


 早めに戻る、と言い残してINNRはPRRYの元を飛び去った。


 ...もう何も言わないぞ。こちらはこちらの仕事をしよう。





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