観測者の憂鬱
さて時は遠い未来。
PRRY-oQ8&jnrhikw!@#WWHW1oD3は悩んでいた。ほぼ全能であるはずの彼の種族としては非常に稀な事に。
PRRY-...以下PRRY、は人類の遠い遠い、地球時間にして3,000万年ほど未来の子孫の一人だ。
人類は2,200年代に人格を全て電子化する事に成功していた。それに伴う体の機械化は当然の帰結だった。初期には助かる見込みのない重病人や老人が電子化の対象だったが、獲得する能力の高さから電子化希望者は高齢者から徐々に下がりつつあった。
多くの若年層が電子化を選ぶようになったのは、子孫を残す事すら遺伝子データの交配シミュレーションにより・子供が最初から電子化している以外は・生身の出産と何も変わらないようになってからだ。
電子化を拒む保守的な層も少なくはなかった、いやむしろ大多数と言えた。争いも起きた。しかし生体の脳の何億倍ものスピードで思考する電脳+機械に生身のホモ・サピエンスが敵うわけもない。電脳陣営は圧倒的に優勢だったが、もちろん拒否陣営を害するような真似はせず自分たちを守るだけに留めていた。
その後も電脳化比率はじりじり上昇を続け、人類の大半が電子化してしまった状態では拒否陣営の存続は難しく、電脳陣営は彼らがゆるやかに衰退するのを見守った。電脳化した人類に時間はいくらでもあった。そしてついに電脳化開始から数百年で有機物としての人類は消滅した。
地球は無機質なデータセンターと自動工場のみが整然と立ち並ぶ星となった。周回軌道にも施設は拡大。施設のメンテナンスや資源採掘のためのロボットのみが地上や海底、そして軌道上を動き回るが、それ以外は自然の姿に還っていった。
その後、生物を遥かに超える大容量の記憶と高速な思考を手に入れた人類は、ほどなく電子回路を次元の凍った光の格子構造に移し替え、ハードウェアの体さえ過去のものとした。コストなしにいくらでも増設できる膨大な記憶容量、光を超える速さの次元格子回路で紡がれる1クロックがプランク時間に迫る超高速な思考。あらゆる物質の軛から離れた彼らは地球から離れた。そこはもう彼らのものではなく、次の生命体に譲り渡すべき場所だった。
宇宙空間の隙間をくぐって何光年も何万光年も旅をした。光速は空間内での限界速度であり、空間そのものを伸張させる事が出来る彼らには限界でも何でもなかった。空間を操作する力で恒星を並び替えて芸術作品とした。発見したいくつもの新たな生命を見守った。時には苦渋のうちに刈り取る事もあった。
新たに次元格子化した生命を迎え入れる事もあった。幸い種族間で闘争になる事は滅多になかった。そもそも不死であり、宇宙の全てを思いのままにできるため所有欲もない。住む場所は文字通り星の数ほどもあった。彼らが争う理由など、趣味の論争程度以上のものはあんまり無いのだった。
しかし数万年・数百万年の年月に耐えられない人格も多かった。彼らは死を選ぶ事こそ少なかったものの、動作凍結で長い眠りに入るか、一部は人格を集合体として供与した。こうして集合人格は成長し、情報密度の臨界点を超えて上位人格となる。
個々の人々はまだギリギリ人類の超上位バージョンと言えたが、上位人格はもう人間の属性を全て失った、いわば物理現象となった。それでも既存人類は上位人格を尊重し共存していく。上位人格は人類同様に複製は作成できない仕組みを作り、そしてこれが他の個別の人類を統治する事となった。
とは言え、衣食住の必要もなく利害の対立も発生しない彼らに具体的な統治の必要はほぼなかった。彼らは宇宙のほうぼうで好き勝手に生きていたし、悪事を働くと言っても既に星々を移動させたり惑星ごと生命体を消滅させたりしている彼らにとって、それ以上に悪いことというのはなかったのだ。一つを除いて。
そのたった一つが時間遡行だ。これは人類種を絶滅させるおそれがある唯一の行為だった。理論的にも実際にも時間旅行は可能だったが、上位人格は宇宙全体の時空間そのものに遡行ロックをかけた。それでこの3千万年間、問題はなかった。神々の長い黄昏は宇宙の続く限りまだ何億年も何百億年も続くと思われていた。
思いっきりクラークをパクってますが、リスペクトという事で多めに見てやってください。




