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マッチ売りの少女2100  作者: ぽんた7
橋の下の灯
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東京から来た子

 私もついに小学6年生になった。最上級生だ。身長はもうひとつ伸び悩んでいるが。ちくしょう。

 始業式の日。教室から外を見ると、いつもなら3月に咲く桜が今年は遅れて今頃咲いている。冬寒かったからかなあ。校門の両脇に並ぶピンク色の並木が綺麗だ。私が入学した時はもう散って葉桜だったから校門前で撮る記念写真の背景は緑色だったが、今年の新入生はピンク色がバックだ。いいなあ~


 初のホームルームが始まった。先生に続いて知らない女の子が教室に入ってくる。転校生みたい。


「白峰美咲です。東京から来ました。」


 良く通る綺麗な声。大きな勝ち気そうな目、長身に細い手足。肩まで伸びたストレートの髪は、少し色が薄め。うむむ、ちょっと美人。


「仲良くしてくれると嬉しいです。よろしくおねがいします。」


 隣でケンちゃんが口を半開きにして見とれてる。くそ、ちんちくリンで悪かったな!


 次の週。


 私はあんまり積極的には彼女に近づかなかった。容姿を比べられるのが嫌とかではない。ないったらない。私は寛容な乙女なのだ、背が小さいのも個性なのだ、グローバリゼーションってやつなのだ、うん。ただしケンちゃんに比較されるのはムカつくけど。チビ扱いしたアイツは許さん。


 始業前そんなしょうもない事を考えていると、美咲ちゃんが私の席に近づいてきた。なんだろう。


「桜庭さんってあなたよね?」


「そうだけど、なあに?」


「あなたって、不思議な力を持ってるんだって?」


 おおう、そう来たかー。どうしたものか。誤魔化すべきだろうなあ。


「そんなの無いよ。ちょっとカンがいいかも、ってだけ。」


「へえ。見えない動物が見えるとか、開けてないプリンの異物が分かるとか聞いたけど?」


 ありゃー、そんなに語り継がれちゃってるのか。伝説かよまいったなあ。とりあえず今更だが、プリンを取ってオオゴトにしたケンちゃんは後でシメておこう。


「そんなの偶然だよ。たまたまだよ。」


「馬が見えるのが偶然?」


「うぐ」


 その時先生が入ってきた。助かった。美咲ちゃんは自分の席に戻っていく。


---


 放課後になった。帰り支度をしていると、また美咲ちゃんが話しかけてきた。


「桜庭さん、いっしょに帰らない?」


 なんと。私の武勇伝を知った上でいっしょに帰ろうとは。奇特な子だ。


「うん、いいよ、帰ろう。家はどっち?」


「駅のほう」


「そっか、じゃあ途中まで一緒だね。」


 急いでランドセルに机の中のものを突っ込み、昇降口まで白峰さんを追いかける。

 いっしょに靴を履き替えて校門を出て歩き出す。ちょっとだけ警戒しながら。


「木村先生って、言い方キツいよね。」


 ああ、うちのクラスの担任ね。5年生から持ち上がりで同じ先生が担任。


「あ、やっぱそう思う?そうなんだよ、怒り方がグチグチ陰険なんだよねー。」


「良く怒られるんだ?」


 ぎく。


「いやー、いっぱんろんいっぱんろん」


「ふーん。まあそういう事にしとく」


 駅に向かう近道の公園に入る。だいぶ散ってきている桜の花びらを踏みしめてしばらく無言で歩く。


「ねえ、桜庭さん、」


「リン、でいいよ。さくらば、って呼びにくいよね。」


「...じゃあ、リン。私ね、」


 言いづらそうに美咲ちゃんが続ける。


「前の学校でいじめられてたの。」


「え」


 こんな勝ち気そうで綺麗な子が?ちょっと意外。いじめる側なら分かる...いやなんでもないごめんなさい。


「最初は学校で、教科書に落書きされたり上履き隠されたり。でも親に言ったら学校に連絡されちゃって、もっとひどくなった。だから転校したんだけど...」


 美咲は自分のアイウェアを指さした。小学校高学年以上の子供なら誰もが装着してる情報端末。国から貸与されるが、自分で購入してもいい。美咲ちゃんのは明らかにカスタムだ。ごく薄いグレーにちょっと水色の差し色が入ったおしゃれなフレーム。いいなあ。


「まだ来るの。匿名のアカウントから嫌がらせメッセージが。ほぼ毎日。」


「そりゃあ熱心だなあ。内容は?」


「『逃げても無駄』とか『S市にいるの知ってる』とか...あと私の写真が変な掲示板に貼られてた」


 それは怖いな。私だったら夜眠れなくなる。


「アイウェア外せば?」


「それ考えたけど授業でも家の連絡でも使うし...それに、外してる間に何書かれてるか分からない方がもっと怖い」


 確かに。見ないふりしても、悪意は消えない。


「警察には?」


「秘匿性高すぎて追えないって。東京でも言われた。」


「インプラントじゃなくても設定は自分でいじれるでしょ。匿名アカウントからのメッセージ、ブロックする機能ない?」


「あるけど...全部ブロックすると、本当に大事な連絡も届かなくなるかも」


「じゃあ、特定のアカウントだけ」


「それがね、ブロックしても発信元を変えて続くの。」


 捨てアカに送信元偽装かあ、そりゃまた達人だな。もう少しその能力をまともな方向に向けられんもんかな。


 美咲は足を止めた。私を真っ直ぐ見る。


「だから...あなたなら分かるかもって。誰が送ってるのか」


 そういう事かあ。オカルト扱いされてる私に頼るって、相当追い詰められてるよねえ。

 よし。ここはリンさんひと肌脱ぎましょう。


「ちょっとアイウェア借りていい?」


 美咲ちゃんからアイウェアを受け取ると、設定をいじるフリをする。


『ポリーさん。わかる?』


『私が断れないように、許可取る前にアイウェアを借りたな?ずいぶん悪知恵が働くようになったもんだが、まあいい。』


 ばれてーら。


『送信者は津田という、元のクラスメートだな。』


 さすポリ。


『その子だけ遮断できる?』


『造作もない。完了した。ついでに拡散していた美咲の画像も削除しておいた。』


 超さすポリ。できる馬。


 こね回していたアイウェアを美咲に返す。


「たぶんこれで大丈夫じゃないかなあ。」


「うそ、ほんとに?こんなちょいちょいで?」


 ちょいちょいて。


「たぶん、送って来てたの津田って人。ブロックしといた。」


 美咲は元々大きい目を、落っこちるんじゃないかってほど更に見開いた。でかいな。


「そんなの分かるんだ!」


「まあ、カンよカン。」


「いやそれはカンじゃあ...まあ今更か。それにしても津田、津田かあ。確かに仲は良くはなかったけど、そこまで嫌われてるなんて思って無かった。」


 怒りより困惑している。そんな美咲に確かめる。


「どうする?」


「どうもしない。」


 美咲は公園の外に向かって歩き出した。私も隣に並ぶ。


「証拠ないし。それに、反応したら負けでしょ。あいつは私が怯えてるのを見たいんだろうから」


 前を向く目の輝きは強がりじゃなさそうだった。


 次の日。


 朝、登校すると美咲は私を見つけるなり走ってきた。


「リン、すごい、本当に来なくなった!」


「良かったね」


「ありがとう。...正体教えてくれたのも」


 美咲は照れくさそうに笑った。おおう眩しい、美人の微笑みはちょっとずるい。こら、ケン、こっち見んな。


「私、あんたのこと変な子だと思ってたけど、変じゃなかった。...いや、やっぱ変だけど。」


「どっちよ」


 二人で笑った。


 それから美咲とは、よく一緒に帰るようになったわ。めでたし。





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