禁則事項
高学年になってからはなるべく不思議ちゃんを脱却すべく振る舞っているので、表面的には無難なヤツ、という印象が付き始めていると思う、たぶん。言葉遣いも意図的にガサツな方向に振っている。「意図的」、ここ大切、試験に出ます。中身はガサツではないんだよ。ほんとだよ。ポリーにお淑やかは似合わない、ボロ出すだけだ、と言われたからじゃありません。
それはともかく。自分が養子と知ったあの日からの疑問と不安は今も晴れない。何故生みの親は私を捨てたのか。血の繋がりがないお母さんとこれからも一緒にいられるのか。また捨てられたりしないだろうか。実母への恨みというものはないが心の傷はある。明るく振る舞ってはいるものの、心の中には常に暗い目をしたもう一人の私が居座っているのがわかる。
そしてもう一つ心に引っかかり続けるのはポリーのこと。
昔は誤魔化されていたが、もうポリーが単なるイマジナリーフレンドだなんて思っていない。私の知らない事をたくさん知っている。どうにも私より頭がいい、それもかなり。自分から生まれた馬ならそんな訳はないのだ。いや今のなし、私は馬鹿ちゃうわ。
いろいろ不思議ではあるが、5才の頃から一緒なのでイヤだという感情は全く無い。ただ、「何故私なのか?」についてははっきり疑問を感じてる。
その事については今までにもポリーには何度も聞いてみている。しかしポリーははぐらかすばかり、ちゃんとした答えは得られない。「たまたま」とか「リンが気に入ったから」「リンの想像力が豊かなんだよ」とか明らかに適当な事を言う。はん、今の私はもう誤魔化されないわよ?
ある日夕飯後に自分の部屋戻ると、決意を固めた私はポリーの前で正座した。
「ポリーさん。」
ポリーが私を見上げて首を傾ける。可愛い。いやいや、そうでなくて。
「お話があります。そこに正座。」
「...」
ぬいぐるみの馬に正座ができる訳はないが、そこは指摘せず後ろ足を前に投げ出す感じで座るポリー。律儀かつ器用な馬だ。
何の話が持ち出されるかは判っているんだろう。何も言わない。
「そろそろ本当の事を話して欲しいです。あなたは私が夢想した存在なんかじゃないよね?あなたは本当は誰?何故私のところに来たの?」
「すまない。もう誤魔化しはしない、確かに私は想像上の馬ではない。しかし、リンのためにも正体を話す事はできない。」
「何故」
「禁則事項」
嘘だな?適当にマンガとかから持ってきた単語だな?
「そんな秘密だらけで、いっしょに暮らせると思うの?」
「すまない、でもリンのために私は存在している。害を与える事は決してない。それは嘘じゃない。」
も ちろん私だってポリーが良くない存在だとは微塵も思っていない。でもなあ。わだかまりを放っとくと大抵ろくなことにならないよなあ。
「わかった。とりあえず信用するけど。この先もないしょ?」
「...もし話せる時が来ればその時は必ず。」
そう、とりあえず進歩ではあるので矛を収めるわ。以前のように無条件でポリーを信頼するのが難しくなっているけど、5年以上いっしょにいるのだ。今更と言えば今更ではある。
「待ってるからね?」
もはやポリーは自分の一部。別れるつもりなんて無い。無いが、今になっても秘密にされる事はちょっと悲しかった。




