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VORTEX (ヴォルテックス)  作者: 九川 滉
第1章 導入

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1-01-08 武器と炎


リュウは朝見つけた指輪が外れなくなったこと、指輪が出し入れ自在であることを伝えた。

紅い空間でのことは、説明が難しいので省略した。

なお、ユイは先に復活させている。


「おー、どうなってんだ!?」

ミヤビはそれなりのリアクションをしているが、リゼは落ち着いたままだ。


「指輪が出たり消えたりするだけ?」

「まあ、今見せられるのはな」


おそらく、指輪はきっかけに過ぎない。

より重要なのは、紅い空間で感じた熱と炎。

帰ってそれを確かめたかったが、彼女達に捕まって断念したのだ。

本当に炎が出てくるとしたら、最悪火事になるので、教室でいきなり試すのは危ない。


「今のところ、好きな時に着けられる便利なファッションアイテムじゃない?」

「……これを見て便利だって言える感性は褒めてやるよ」

リュウも悲観的な性格ではないが、指輪にまつわる一連の出来事を思い出すと、便利アイテムと呼ぶ気にはならなかった。



「他には出せねーの? 武器とか」

「武器?」

ここまでの説明から飛躍して、ミヤビが他の物を出せと言い出した。

手品かなにかと勘違いしているのだろうか?


リュウが怪訝な目で見ていると、ミヤビは続ける。

「お前の意思で指輪が出てくるんだろ? なんで出るのが指輪だけだって決めつけてんだ?」

「決めつけてる……のか?」


確かに、元々あったのが指輪だけだったから、それ以外の物が関係するとは考えなかった。

指輪だけが出現・消失するのではなく、そのシステムの対象の1つだとしたら。

ミヤビの言うことにも、一理あるのかもしれない。


とは言え、「無い」ものを「有る」ものとするシステムなのだから、その辺に既にあるものを呼び出すことはできないだろう。

現に、机に掛けた鞄を見ながら念じても、1mmも動かない。

つまり、これまで見たことがないものをイメージしなければならない。


「難しく考える必要はないんじゃないの?」

「……と言うと?」

リゼの助言は漠然としていたため、そのまま聞き返してしまった。


「あなたが指輪のデザインを考えたわけじゃないんでしょ。 他の物だって、あなたに似合うのを出してくれるんじゃない?」

似合うというのは、誰が判断するのだろうか?

そんなことを考えたのがリゼに伝わったのか、さらに言葉を続けた。


「どうせミヤビの思いつきなんだし。気楽にやればいいじゃない」

「……出るかどうか ……わからない」

「おい! オレの意見だからってダメ元みたいに考えてねーか?」


3人のくだらないやりとりを見て、軽く笑ってしまう。

「……そうだな」


そもそもが不可思議な現象。深く考えず、やってみればいい。

左手を上向けて、目を閉じる。


リュウに指輪を与えたのが何者かはわからない。

与えたからには、リュウに何かをしてほしいはずだ。

その何かを果たすために、他に必要なものがあるんじゃないか?


そう心の中で問いかけると、左手にずしりと重みを感じた。

目を開くと、そこにはリュウの身長ほどの長さの棒があった。


「これが武器か?」

こういう文脈で武器と言えば、剣とかが相場ではないだろうか。

包丁より長い刃物は扱ったことがないので、いきなり剣を持たされても困るが。


などと考えながら現れた棒を見ていると、3人が感想を言い出した。

「やっぱ地味だなー。 お前っぽいけど」

「合ってるんじゃない? あなたって見た目のわりに暴力性ないから」

「……イメージどおり」


リゼが実質、暴力をふるいそうな外見と言っているのは無視する。

昔から知っているから。

3人とも、リュウの性格的には地味な打撃武器が似合うという評価なのだろう。


「……なら良かったよ」

その評価を素直に受け取っておく。





「ちょっと貸してみ」

「ん? ああ……」

許可を出す前にミヤビが棒を持っていった。

指輪と違って、リュウの体から離すことができるらしい。


「普通に使えるみてーだな」

ミヤビが棒を器用に回している。

リュウ以外が扱うこともできるようだ。


それを眺めながら、指輪と同じ要領で棒を消してみる。

「うお!? 急に消すなよ!」


ミヤビの文句は聞き流して、手元に棒を再度出現させる。

誰かに盗られても安心だ。

「便利だな」



そんな感じで、リュウの武器となった棒について試していると。

リゼが素朴な疑問を口にした。

「で? これを使って、あなたは何をするつもりなの?」


「何を、って言われてもな。 特にないよ」

「何もしないの?」


指輪を寄越してきた者には、してほしいことがあるのかもしれないが。

それがわからないのだから、自分から動く必要はない。


「変な指輪と棒を手に入れた。 それだけだろ」

「ふぅん……」


元はと言えば、リュウの呟きをリゼが気にしたのが始まりだった。

その原因と、さらに多くの情報を彼女達と共有したのだ。


「これ以上俺にわかることもないし、話は済んだだろ?」

「……まあ、そうね」


リゼも納得したようなので、自席の鞄を手に取って帰る準備をする。

「じゃ、また明日」


「おう、じゃあなー」

「……また明日」


リゼは無言で何か考えている様子だったが、リュウは特に気にせずに教室を出ていった。









寄波32年10月1日 午後8時



「はあ……」


火神宅の浴室。

リュウは湯舟に浸かっていた。

浴槽に背中を預けてぼんやりと上を見ながら、ため息を吐く。


今日は特に疲れる一日だった。

左手を持ち上げ、ため息の原因を出現させる。

最初に着けてから12時間ほど経過したことになるが、まだまだ外れることはなさそうだ。



先ほど、帰宅した両親に指輪のことをそれとなく訊いてみた。

実物を見せたりはしていない。アクセサリー売り場についてなど、遠回しに話をしただけだ。

その結果、二人ともリュウが持っている指輪のことは何も知らないようだった。

仮にとぼけているのだとしても、それ以上情報は得られそうにないので、深くは聞かなかった。


そして夕食を終え、今に至る。



リュウがここで指輪を出現させたのには理由がある。

風呂場では当然、大量の水が出せる。つまり消火が比較的しやすいはず。

というわけで、紅い空間で感じた炎を出してみようと考えていた。


普段なら、リュウの入浴は20分もかからない。

両親に変に思われずに長風呂するとしたら、30分が限度だろう。

それまでに、扱い方がわかれば上出来だ。



まずは人差し指に意識を集中し、体内を流れる”熱”をわずかに指先から放つ。

この状態では、目に見える変化はない。

しかしリュウは既に、影も形もなかった棒が手元に現れるのを目の当たりにしている。

迷うことなく、放った”熱”が燃え上がる様子をイメージする。

すると、指先から少しだけ離れた位置に、小さな火が灯った。


「……ここまで来たら、火だって出るわな」

どこか諦めたように呟いて、リュウはこの状況を受け入れた。


ただ、火というのは本来、何らかの物質が酸素と反応して起こるはずだ。

リュウの指が燃えているわけでもないので、この火は物質とは関係なく発生しているように見える。

そのため、化学的にはこれを”火”と呼ぶのは正しくないかもしれないが、その見た目を表す言葉が”火”以外に思い浮かばなかった。

化学の教科書ではないから、正確さは気にせず”火”と呼ぶことにしておこう。

そういうことにして、自身が発した火について調べていく。


指と火の隙間は1cmもない。

火にここまで近づければ、普通なら相当な熱さを感じるはずだが、指先はそれほど熱くない。

今浸かっているお湯よりは熱い、というくらいだ。


指をゆっくり動かすと、小さな火も付いてくる。

ある程度速く動かしても、火は消えずに追従している。

指との連動を切って、火を空間に固定することもできるようだ。


火が消えるのをイメージすれば、指先の火もすぐに消える。

指輪と同様に、リュウが望めば出すのと消すのは自由らしい。


再度火を灯し、指ごと湯舟に突っ込んでみる。

リュウの意思に反して、火は消えてしまった。

水をかけたら火は消える、というリュウの中の常識が、無意識に消えるイメージを作り出しているのかもしれない。

意図せず発火することはないだろうが、意図せず消えることはある、と認識しておく。



次に、肩まで浸かってリラックスした体勢で、少し離れた一点を見つめる。

体からその点までの”熱”の流れを意識して、発火。

意識を集中する必要はあるが、指輪や棒と違って、離れた位置にも出現させることができた。

ただ、実際に火が灯るまで、わずかにラグがあった。


「……?」

まさかと思いつつ、発火地点を遠ざけていく。

3回目で浴室の広さの限界に達してしまったが、距離に比例してタイムラグも延びている気がする。

何もないところに発火させているのではなく、リュウの”熱”を伝えることで発火できる状態にしている、ということだろう。





試せそうなことを一通り確認して、リュウは湯舟から上がった。

体を拭きながら、ふと一日を振り返っていると。


悪い事の後には良い事がある。

そんな父の持論が脳裏をかすめた。


それを否定したいわけではないが、逆の考え方があることも知っている。


悪い事は連続して起こる。

そんな予感を抱きつつ、リュウは浴室を後にした。





大変遅くなりました。

次回はやっとバトル回になります。

投稿ペースを崩さないようにしたいです。

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