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その頃、勤務を終えた片山、中山、伊東の三人は、居酒屋「灯火」へ向かっていた。
店の暖簾をくぐると、店主が笑顔で迎えた。
「お、片山さんたち。今日もお疲れさん!」
「こんばんは。三人です。」
片山がそう言うと、店主は奥の座敷席を指さした。
「あっちに座って。すぐにお通しを持ってくから。」
三人は席につくと、それぞれビールを注文し、一息ついた。
「ふぅ…週末なのに、この時間まで仕事しなきゃいけないなんて。」
伊東が疲れた表情でぼやいた。
中山が苦笑しながら答えた。
「これも管制官の宿命だろ。平日も休日も関係ないんだから。」
「それはわかってますけどね…たまには早く帰りたいですよ。」
そんな会話をしていると、女将が笑顔でお通しを運んできた。
「皆さんお疲れ様です。今日はぶり照りもおすすめですよ。」
「いいですね。じゃあ、それお願いします。あといつものあれも。」
片山が注文すると、女将は嬉しそうに頷いて厨房へ戻った。
ビールが運ばれ、一杯目の乾杯が終わると、自然と職場の話題になった。
「そういえば…この半年で、北村の雰囲気が変わったと思わないか?」
中山が口を開いた。
「北村さんですか?」
伊東が首を傾げる。
「なんか片山さんが来てから、随分明るくなったように感じる。昔はもっと暗い感じだったんだぞ。」
片山は意外そうに眉を上げた。
「そうだったのか?今の恵理しか知らないけど、彼女はすごく明るいし、職場のムードメーカーだと思ってた。」
中山は少し真面目な表情になりながら続けた。
「それがな…北村が初めて配属された時、今とは全然違ったんだ。表情も硬くて、どこかよそよそしい感じでさ。周りともあまり話さなかった。」
「そんな時期があったんだ。」
片山は静かに言った。
「ちょうどその頃、北村のお父さんが亡くなったらしい。ANAのパイロットだったって聞いたけど、癌だったそうだ。そのショックでしばらく元気がなかったんだと思う。」
中山が語る。
伊東が頷きながら言った。
「そうだったんですね。でも、今は随分と明るくなってますよね。」
「それは片山さんのおかげなんじゃないですか?」
中山が片山を指さしながら言った。
「俺の?」
片山は驚いた表情を浮かべた。
「そうですよ。拓海もなんとなく気づいてるだろ。」
「確かに…片山さんが来てから、北村さんが片山さんに質問したり、アドバイスを求めたりする姿をよく見ますね。」
片山は少し照れくさそうに笑った。
「そう言われると、なんだか責任重大だな。でも、彼女自身が努力してるんだろう。俺はちょっと手助けをしてるだけさ。」
「相変わらず謙虚っすね。でも、そういうのがまた片山さんらしいですよ。」
中山が笑いながらビールを飲み干した。
その後も三人は職場の話題や近況報告をしながら、賑やかに時間を過ごした。店主がぶりの照り焼きと特製焼き鳥盛り合わせを運んでくると、香ばしい匂いが広がり、会話はさらに盛り上がった。
「うまそう!」
伊東が元気よく箸を取る。
片山はビールを一口飲みながら、静かに北村の姿を思い浮かべていた。彼女が少しずつ成長し、職場で輝きを増しているのを感じていた。
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居酒屋を後にした片山は、駅に向かって歩き出した。所沢の夜は静かで、秋から冬へと移り変わる冷たい風が頬を撫でる。街灯に照らされた道路を歩きながら、自分のこれまでの道を思い出していた。
関西国際空港で若手管制官として働いていた頃、上司の判断ミスを鵜呑みにし、航空機に指示を出したことで2機の航空機がニアミスを起こした。その結果、地元である大分空港への異動が決まった。しかし、大分での15年間、地域の航空交通を支える中で、仲間との信頼や自身の技術を磨いていった。それでも自責の念からは逃れられなかった。
しかし、その後、羽田空港への異動が決まった。羽田では大規模な空港での業務に加え、数々の困難を仲間たちと力を合わせて乗り越えた。そして片山自身も過去を受け入れ、前に進むことができた。仲間たちと共有した緊張感や達成感、一つ一つの経験が今の自分を形作っている。
北村の成長に、自分がかつて同じように仲間に支えられ成長してきた記憶が重なった。
踏切の近くまで来ると、遠くから電車の音が聞こえてきた。片山は立ち止まり、遮断機が下りるのを待ちながら、流れていく電車の明かりを見つめた。
片山はふと空を見上げた。
都会の空には星が少ない。それでも、一筋の光が見えることに気づくと、片山の表情は少し緩んだ。
踏切の遮断機が上がり再び歩き出した片山は、駅のホームに立つと電車を待ちながらバッグからメモ帳を取り出し、今日の出来事を思い返していく。職場での連携や会話、北村や伊東の成長…その一つ一つが片山にとって誇らしい瞬間だった。
電車がホームに滑り込むと、片山は静かに乗り込み、窓際の席に座った。夜の車窓に映る街並みを眺めながら、片山は明日への準備を頭の中で組み立てていた。
所沢の夜は、静けさと共に片山の心に新たな決意を刻みつけていた。




