70.終焉の業火
ブクマ、誤字報告ありがとうございます。
リーゼロッテの体から放たれる魔力は強大だった。
シュルツ卿、ウィノラ、エックハルト伯爵が三重に結界を張ったが、このままでは持ちそうになかった。
シュレヒテ侯爵は叫んだ。
「王家は滅びよ。今やゾルゲの血が世界を我が物とするのだ」
ウィノラは言った。
「ガリーナが魔力を増幅させています。
ガリーナを止めれば、リーゼロッテ様の魔力も収まります」
エックハルト伯爵が風の魔法でガリーナの元へ向かうが、シュレヒテ侯爵とガリーナは一瞬で姿を消した。
呆気に取られた人々が立ち尽くす中、リーゼロッテの魔力は更に増幅し、このままでは聴衆をも巻き込む大惨事になってしまう。
リーゼロッテは自ら必死に魔力の暴走を止めようと祈った。
しかし暴走は止まらない。
人々は呪われたモノを見るような目付きでリーゼロッテを呆然と見たままだ。
不気味な静けさが辺りを包んだ。
アルベアト王は覚悟を決め、リーゼロッテの前に進み出た。
「今からお前の暴走を止めるが、代償は大きい。生命を失うかもしれない。しかし、民を守るためだ。許せ、リーゼロッテ」
「何故こんな目に合わなければいけないの」
アインホルン王国の王女リーゼロッテは声にならない程小さく呟いた。
目の前には父親であるアルベアト王が、
爛々と目を光らせながら「終焉の業火」と
唱え闇魔法と思しき巨大な黒い炎をリーゼロッテに向けて発した。
アルベアト王の前には厚く七色の光を発する魔法書が開かれていた。
「こんなにぶ厚い本は初めて見たわ。そしてこの色彩も..」
命果てそうな時であっても、いやむしろそんな時であるからこそ、自らの命以外の事を思案している事が可笑しく、ふっと微かに微笑んだ。
そもそも齢9歳、「本無し」とはいえまだ幼く、ましてや実の父親に殺される程の何の罪を犯したと言うのか。
リーゼロッテの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた瞬間、黒い炎は身体全体を巻き込んで更に強く燃え盛った。
全身が黒焦げになるのを遠ざかる意識の隅で感じた。
ヒーリーヌ王妃が泣き崩れる。
ウィノラが泣き叫んだ。
「私が代わって差し上げたい」
シュルツ卿とエックハルト伯爵は成すすべなく青ざめている。
「何故こんな目に合わなければいけないの」
アインホルン王国の王女リーゼロッテは声にならない程小さく呟いた。
目の前には父親であるアルベアト王が、
爛々と目を光らせながら「終焉の業火」と
唱え闇魔法と思しき巨大な黒い炎をリーゼロッテに向けて発した。
アルベアト王の前には厚く七色の光を発する魔法書が開かれていた。
「こんなにぶ厚い本は初めて見たわ。そしてこの色彩も..」
命果てそうな時であっても、いやむしろそんな時であるからこそ、自らの命以外の事を思案している事が可笑しく、ふっと微かに微笑んだ。
そもそも齢9歳、「本無し」とはいえまだ幼く、ましてや実の父親に殺される程の何の罪を犯したと言うのか。
リーゼロッテの頬に一筋の涙がこぼれ落ちた瞬間、黒い炎は身体全体を巻き込んで更に強く燃え盛った。
「何故こんな目に遭わなければいけないの」から重複しています。
聴衆の目の前でリーゼロッテは黒焦げとなり転がっていた。
アルベアト王がリーゼロッテに自分のローブを掛け、凛とした声で言った。
「暴走は止まった。皆、帰るが良い」
聴衆は泣きながら王宮を出て行く。
一人残らず返したところでアルベアト王は警護の騎士たちと魔法師団員を下がらせた。
皆沈痛な面持ちで外庭を後にする。
ヒーリーヌ王妃とウィノラは泣き崩れている。
シュルツ卿とエックハルト伯爵も茫然としたままだ。
アルベアト王は静かに言った。
「リーゼロッテは死んでいない。
肌は黒焦げになったが、生命に別状は無い筈だ」
皆、はっとして息を飲む。
シュルツ卿が尋ねた。
「どういう事でしょうか」
「私は闇魔法の終焉の業火を使い、リーゼロッテの魔力暴走を抑えたが、代償は焼け爛れた皮膚だ。火に寄る火傷とは違い黒く変色しているだけだが、ところどころまだらになり、見た目は酷いものだ。皮膚を隠すローブを纏わせ、王女をシュバルツ王国へ送ろう」
エックハルト伯爵は抗議する。
「何故シュバルツ王国へ送るのです。
北の塔にお戻りになればいい。
我々はリーゼロッテ様に生涯使えます」
アルベアト王は被りを振り、言った。
「シュレヒテとガリーナは逃げたのだ。
リーゼロッテが生きていると知れば、必ずやまた命を狙うであろう。
シュレヒテとガリーナの命を絶つまでは、リーゼロッテの生存を知らせてはならぬ。
シュバルツ王国は私の母である前王妃の祖国だ。
国王は母の大叔父に当たる。
上手くリーゼロッテを守ってくれるだろう」
シュルツ卿が嘆願した。
「私がお供致します。ウィノラ、君も」
アルベアト王はまた被りを振る。
「ふたりが共に行けば、リーゼロッテだと知れるだろう。
供はイエルに任せよう。
シュルツ卿、すぐにイエルを呼んできてくれ」
エックハルト伯爵はアルベアト王に尋ねた。
「陛下はその光の魔法書の後ろに闇の魔法書を隠されていたのですな。
闇魔法を使われるとは知りませんでした」
アルベアト王は淋しそうに笑い言った。
「長年隠して来たが、それが役に立ったようだ。望んだ結果ではないが」
そこへシュルツ卿とイエルを連れ戻って来た。
「イエル、これからシュバルツ王国へリーゼロッテを連れて行け。そして、生涯王女を守るのだ。いいか」
イエルはシュルツ卿からあらましは聞いていたので、頷き言った。
「必ずや、リーゼロッテ様をお守り致します」
家紋の無い馬車でイエルはまだ意識のないリーゼロッテを抱き抱え、シュバルツ王国へと向かった。
馬車を陰から見送るアルベアト王、ヒーリーヌ王妃、シュルツ卿、ウィノラ、エックハルト伯爵。
シュルツ卿は小さく呟いた。
「必ず生きてお戻りください」
お読みいただきありがとうございます。
アインホルン王国編は今回にて完結しました。
少し時間をいただき、シュバルツ王国編を始めますので、宜しくお願い致します。




