68.転機
あの災害級の魔物討伐から早20年が経とうとしていた。
ゾルゲ族への脅威もここ数年で薄れ、王都には昔の活気が戻りつつあった。
アルベアト王は長年中止していた収穫祭を開催する事とし、これを公布した。
久々の祭に人々は沸きたった。
準備は着々と進み、人々の期待は頂点に達していた。
アルベアト王はこの機に、リーゼロッテのお披露目をしようと考えていた。
北の塔にずっと隠されて来た王女である。
国民の前に、あの愛らしく清らかで美しい王女が現れれば、必ずや皆の心を手中に収める
に違いないと確信していた。
ひとつ不安が有るとすれば、シュレヒテ侯爵とガリーナの存在であったが、6年もの間姿を現していないのだ。
そろそろ、リーゼロッテを北の塔より解放し
王宮にて親子3人暮らしたいとヒーリーヌ王妃の悲願をアルベアト王は無視出来なかった。
秋の収穫祭を機にリーゼロッテ王女が王宮に戻られる手筈となり、北の塔は慌ただしくなった。
シュルツ卿はリーゼロッテ王女に対するこれまでの功績により、伯爵位を叙爵され、リーゼロッテ王女が王宮に移られた後、ウィノラと結婚する事になった。
王都近郊に肥沃な領地を賜わったが、同時にアルベアト王の側近に取り立てられるため、
暫くは王都暮らしとなりそうである。
ウィノラはシュルツ卿と婚姻の後も魔法研究を続ける意向である。
ファティマはリーゼロッテ王女と共に王宮へ移り、乳母兼侍女を続ける。
イェルはリーゼロッテ王女の侍従兼護衛として王宮に移る。
ユング子爵だけは下働きと共に暫くは北の塔を管理する事になった。
エックハルト伯爵は諜報部の仕事のみとなったが、リーゼロッテ王女の拝謁に王宮通いが頻繁になるだろうと誰もが思っていた。
北の塔の面々は、互いに別れを惜しんだが、
同時に希望に燃えていた。
「感謝祭で国民の前に出るのですから、きちんと笑顔で対応なさるのですよ」
ファティマの言葉にリーゼロッテは頷く。
リーゼロッテにしてみれば、アルベアト王とヒーリーヌ王妃と共に暮らせるのは、嬉しく
楽しみにしてはいたが、9年もの年月共にあった育ての親と言うべきシュルツ卿とウィノラ、祖父の様なエックハルト伯爵とユング子爵、皆と離散するのは断腸の思いだった。
「もう会えないわけではありませんよ。
皆、王都におりますから、いつでも会えます」
ウィノラの言葉に涙ながらに頷くリーゼロッテであった。




