66.天使の笑い声
ヒーディの爆死とゾルゲ族の生き残りであり王族では無かった事実は、国中に衝撃を与えた。
詰まるところ、あれだけ持て囃されたガリーナが、王族どころかゾルゲ族であった。
「魔族の生き残り」
「国を滅ぼす凶星」
あの熱狂が嘘のように、民たちはあっという間に手のひらを返した。
「民の評価などそんなものですよ」
宰相不在の為、シュナイダー商会を父親に任せ、臨時代行宰相となったデレックスが言った。
元々、アルベアト王はデレックスを宰相に熱望していたのだから、このまま、なし崩しに宰相職に留まらせるだろう。
シュナイダー商会については、ウィルメットの意外な商才がわかり、その手腕を発揮していた。
もともと人当たりが良く天使の様な容貌で、
更に物を見る目が優れていた。
幼い頃から、沢山の物を購入していたという事もあるが、そもそもの審美眼や鑑定能力に優れたいた。
客は夢見心地で品物を購入していく、とは護衛に付いているフォルカーの言であるが、魔法は使えなくとも人を幸せにする心の魔法が使えるのだ、とは父エックハルト伯爵の言である。
揃って相当の親馬鹿、兄馬鹿ではあるが、ウィルメットの心の清らかさは客たちにも伝わるのは間違いない。
北の塔では王位継承争いにひとまず区切りがついたため、皆安堵した。
しかし、王位継承以上にゾルゲ族のガリーナがこの先どのように成長するのかは脅威であった。
2歳にならずして、人々を恐怖に陥れる傲岸さと、あの異様な魔法書はこの国だけではなく、他国にも影響を及ぼす可能性があった。
魔族の生き残りだから粛正しなくてはならないのか、魔族といえど社会に適応出来るのなら共生を図るのか。
あの笑い声だけで粛正する事は出来ないのは誰もがわかっていた。
しかし、あの笑い声こそ、世界を滅ぼしかねない社会不適合の証である事もわかっていた。
今はシュレヒテ侯爵の出方を待つしかないようだ。
魔法書を持たないリーゼロッテ王女は今日も天使の笑い声を皆に届けていた。




