65.笑い声
ガリーナの笑い声は神殿に響き渡り、不気味さに皆打ち震えた。
2歳前の子供とはいえ、母親が爆死して笑い転げるなどあり得ない。
そして皆を更に驚愕させたのは、ガリーナの前に妖しく光る分厚い魔法書の存在だった。
「あれも人ではないな」
エックハルト伯爵は呟いた。
アルベアト王は前に進み出て宣言した。
「皆、ヒーディの額の逆ペンタグラムを見たな。あれこそゾルゲ族の証だ。
前王妃はいや、もう罪人だが、ゾルゲ族の男の子を宿し王家に入り、その娘を王族と謀った。故にその娘ガリーナもゾルゲ族の血を引く者。もとより王族ではない。
わかったな」
シュレヒテ侯爵はアルベアト王の宣言を聞いても、まだニヤニヤ笑っている。
「系譜からも削除する」
シュレヒテ侯爵は笑いながら言った。
「王族から外されても構いませんが、
ガリーナはゾルゲ族の血をひいていようが、
我が娘に違いはない。
まさかゾルゲ族だからと言うだけで処罰する事はないでしょうね」
ゾルゲ族である事もあっさり認めたのは、
最早、王位そのものにすら興味は無いのかもしれない。
狙いは何だ。
アルベアト王の顔に焦りが浮かんだ。
「ゾルゲ族では神殿にて感謝式でもありますまい。失礼しますが、もう他に用はありませんね、そちらにお隠れの皆さんも」
シュルツ卿とエックハルト伯爵は物陰からのっそりと姿を現す。
ウィノラにはそこに隠れているよう目配せしていた。
「水の貴公子とエックハルト伯爵ですか。
お役目ご苦労様でしたな」
笑いながらシュレヒテ侯爵は神殿を出て行く。
腕に抱かれたガリーナはまだクックと笑っていた。
シュレヒテ侯爵が去った神殿は一瞬静まり返った。
アルベアト王はヒーリーヌ王妃を労りながら
全員に言った。
「至急ヒーディとガリーナの系譜からの削除を」
全員が頭を下げて答える。
国王夫妻は控えていた護衛の騎士と共に王宮へ戻って行った。
残されたリヒター大神官たちは騒然となった。
「ゾルゲ族など本当に存在していたのか」
「魔族なのに放置してよいのか」
「逆ペンタグラムなど恐ろしい」
「あの娘は何だ。人では無いだろう」
誰もが混乱していた。
リヒター神官長は静かに言った。
「全てを受け止めるしかないだろう。
神の御心だ」
神とは真逆の存在が現れてしまった今、
神殿内はカオスと化した。




