62.儀式の裏側
国内の混乱がやや収束するには半年の月日がかかった。
リーゼロッテ王女は2歳となり、ますます愛らしくなった。
可愛い盛りである。
しかしながら塔の面々はこれから待ち受ける
更なる試練を思い憂いた。
王位の重さを改めて思い知っていた。
明日はシュレヒテ侯爵とヒーディの娘の命名儀式と魔法書の鑑定の日である。
「王族を語る痴れ者が」
リーゼロッテ王女シンパのエックハルト伯爵はいきり立つが、未だ確たる証拠もないため
糾弾も出来ない。
ひとつ明るい光があるとすれば、ヒーリーヌ王妃の容態が回復傾向にある事だ。
ゾルゲ族の逆ペンタグラムを浮かび上がらせる事が出来るのは聖魔法だけだという事実が、
ヒーリーヌ王妃を奮い立たせていた。
実際のところ、まだ聖魔法を操るまでには回復していないが、明日の儀式には参列出来るほどには回復していた。
「ヒーディとその娘が公に姿を現す千載一遇の機会ですのに」
ヒーリーヌ王妃は嘆いたが、アルベアト王はいなした。
「ヒーリーヌが回復すれば、機会はまたやって来る。今は体の回復に専念するのだ」
翌日儀式は厳かに始まった。
王殿に居並ぶのは王と王妃、
何食わぬ顔のシュレヒテ侯爵夫妻、
大神官達である。
王族の命名儀式なら何百人もの神官が居並ぶ
のが常であるが、王族どころか逆族であろうシュレヒテ侯爵夫妻とその娘にさく予算はない。
表立っては魔物討伐からの復興の最中であるという理由により、最少人数の顔ぶれで執り行なうとう命であった。
王殿の扉が開き、侍女に手を引かれ、よちよちと拙い足取りで美しい女児が入場した。
ヒーリーヌ王妃は背筋に薄ら寒いものを感じた。
柔らかそうなアイボリーのドレスには、これでもかというほどの、金糸銀糸で豪奢な刺繍が施されている。
あくまで王族を語るか、とアルベアト王は思った。
そのドレスに一同が気づいた瞬間、静かだった王殿にざわめきが起きた。
「金糸銀糸とは」
リヒター神官長は小さく呟き、そっと国王夫妻の様子を伺うと、アルベアト王は唇をわなわなと震わせ、拳が震えるほど握りしめている。
ヒーリーヌ王妃はうっすらと涙を浮かべているように見えた。
ヒーリーヌ王妃は聖魔法を操れないもどかしさに涙を浮かべていたのだが。
リヒター神官長は、小さく首を左右に振ってから入場者に命じた。
「こちらに来なさい。」
王殿の象徴である光が幾重にも差し込む神々しい台座へと促す。
移動しようと侍女が女児の手を引くと、
女児は足をピタッと止め侍女の手を振り払いながら大声で叫んだ。
「うるしゃい!」
まだ拙い喋りでオブラートに包まれたとはいえ、この女児の気性が窺い知れる一言だった。
アルベアト王とヒーリーヌ王妃は確信した。
この娘を王位に就けてはならないと。
それは国の、いや世界の終焉を意味すると。
リヒター神官長は何事も無かったかのように
もう一度命じた。
「こちらに来なさい」
ヒーディがコホンとわざとらしく咳をして、侍女を睨みつけると、ハッとした侍女は急いで女児を抱き上げ、台座に下ろし、自らは後ろに下がる。
神官長のリヒター卿が厳かに宣言した。
「これよりアインホルン王国、シュレヒテ侯爵の第一子の命名儀式及び魔法書鑑定を執り行う。」




