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棄てられ姫は誰にも愛されない  作者: 鷺森薫
アインホルン王国編
59/70

59.日記


北の塔の執務室にて一斉捕縛の後始末をしながらフォルカーは、シュルツ卿やデレックスに言った。


「毒蛇とかヒーディとか、情況証拠はあり過ぎるのだから、捕縛出来ないのかなぁ」


シュルツ卿は悲しげに微笑み言った。

「それが出来れば楽だが、物的証拠が出ない限り裁く事は出来ないよ」


フォルカーはチッと舌打ちをした。

「フォルカー、それはあまり良い態度ではない」


水の貴公子シュルツ卿に諭されフォルカーは笑う。


「あっ」

急に大声で叫ぶ。


「フォルカー、それも良くない」


「違いますよ。副長。

あれだ。あれどうなりましたか。

ドサクサに紛れて失念してたけど、

クラウゼさんの日記がありましたよね」


シュルツ卿とデレックスが顔を見合わせる。

目紛しかったこの数日の惨事に囚われ、クラウゼの日記まで手が回らなかった。

正直なところ失念していたと言うのが本当のところだった。


「何か毒蛇について書いてあるかもしれない。確認しよう」


急いで机から日記を出し読み始める。


日記は革細工の店に通い出した時から始まっていた。

几帳面な性格通りの文字を追う。


『あの子たちは何て幸せそうなのか。

ただ側で見守るしか出来ないけれど、それだけで私は十分幸せだ』


『あの子たちに子どもが生まれた。

神さま、感謝致します』


娘夫婦との触れ合いが本当に幸せそうに書き綴られており、その後の悲劇を知るシュルツ卿には辛かった。


眉間を指で押さえながら、続きを読む。


ある日を境に日記の文字は乱れ始めた。


『毒蛇が接触してきた。

 来賓担当のゼンタと言う侍女が仲介者だ。

 ヒーリーヌ様に毒を盛れと言う。

 今ヒーリーヌ様のお体は弱っていて、癒し魔法や回復魔法を使える状態ではない。

言う事を聞かないなら娘夫婦が不幸になる、と脅された。

どうしたらいい。

ヒーリーヌ様は恩あるお方。裏切れない』


何頁か白紙の頁があり、先に進む。


乱れて良く読めない字で書き殴ってある。


『毒蛇はあの子を焼き払った。夫と店まで。

毒蛇、許せない。

そして、赤ちゃんを人質に取られた。

赤ちゃんは無事なの。

無事でいてほしい。

赤ちゃんのためなら私は裏切り者になる』


裏切り者になる、と書かれている時点で、

クラウゼは毒蛇への復讐を誓っていたのだろう。

その為にわざわざ書き記したに違いない、とシュルツ卿は思った。


『ゼンタを通じて毒蛇に情報を渡す。

 王女様がお産まれになった事だ。

 間も無く北の塔に移動となる事も。

 どうか、王女様が北の塔の皆さんが無事に

 来られますよう。

 許してください』


あの襲撃が筒抜けだったわけだ。


『私は毒蛇がシュレヒテ侯爵である事、そしてヒーディの後ろ暗い秘密を必ず解き明かす。それで無ければ天国のあの子たちにも、

北の塔の皆さんにも顔向けが出来ない』



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