59.日記
北の塔の執務室にて一斉捕縛の後始末をしながらフォルカーは、シュルツ卿やデレックスに言った。
「毒蛇とかヒーディとか、情況証拠はあり過ぎるのだから、捕縛出来ないのかなぁ」
シュルツ卿は悲しげに微笑み言った。
「それが出来れば楽だが、物的証拠が出ない限り裁く事は出来ないよ」
フォルカーはチッと舌打ちをした。
「フォルカー、それはあまり良い態度ではない」
水の貴公子シュルツ卿に諭されフォルカーは笑う。
「あっ」
急に大声で叫ぶ。
「フォルカー、それも良くない」
「違いますよ。副長。
あれだ。あれどうなりましたか。
ドサクサに紛れて失念してたけど、
クラウゼさんの日記がありましたよね」
シュルツ卿とデレックスが顔を見合わせる。
目紛しかったこの数日の惨事に囚われ、クラウゼの日記まで手が回らなかった。
正直なところ失念していたと言うのが本当のところだった。
「何か毒蛇について書いてあるかもしれない。確認しよう」
急いで机から日記を出し読み始める。
日記は革細工の店に通い出した時から始まっていた。
几帳面な性格通りの文字を追う。
『あの子たちは何て幸せそうなのか。
ただ側で見守るしか出来ないけれど、それだけで私は十分幸せだ』
『あの子たちに子どもが生まれた。
神さま、感謝致します』
娘夫婦との触れ合いが本当に幸せそうに書き綴られており、その後の悲劇を知るシュルツ卿には辛かった。
眉間を指で押さえながら、続きを読む。
ある日を境に日記の文字は乱れ始めた。
『毒蛇が接触してきた。
来賓担当のゼンタと言う侍女が仲介者だ。
ヒーリーヌ様に毒を盛れと言う。
今ヒーリーヌ様のお体は弱っていて、癒し魔法や回復魔法を使える状態ではない。
言う事を聞かないなら娘夫婦が不幸になる、と脅された。
どうしたらいい。
ヒーリーヌ様は恩あるお方。裏切れない』
何頁か白紙の頁があり、先に進む。
乱れて良く読めない字で書き殴ってある。
『毒蛇はあの子を焼き払った。夫と店まで。
毒蛇、許せない。
そして、赤ちゃんを人質に取られた。
赤ちゃんは無事なの。
無事でいてほしい。
赤ちゃんのためなら私は裏切り者になる』
裏切り者になる、と書かれている時点で、
クラウゼは毒蛇への復讐を誓っていたのだろう。
その為にわざわざ書き記したに違いない、とシュルツ卿は思った。
『ゼンタを通じて毒蛇に情報を渡す。
王女様がお産まれになった事だ。
間も無く北の塔に移動となる事も。
どうか、王女様が北の塔の皆さんが無事に
来られますよう。
許してください』
あの襲撃が筒抜けだったわけだ。
『私は毒蛇がシュレヒテ侯爵である事、そしてヒーディの後ろ暗い秘密を必ず解き明かす。それで無ければ天国のあの子たちにも、
北の塔の皆さんにも顔向けが出来ない』




