57.証拠
シュルツ卿は面々を見回して言った。
「これはクラウゼさんから私たちに託された
願いです。これ以上、あちら側に苦しめられる人間がいてはいけない。
全面戦争になるかもしれません。
でも我々が勝たねばこの国に未来はない」
皆頷く。
「エックハルト伯爵はこの全ての書類を確認し、記憶してください。
そしてすぐ陛下に連絡をお願いします」
「クラウゼさんのお別れ会はまず敵の一斉捕縛から始めましょう。
敵は微に入り細に入り蔓延っています。
上手く立ち回らないと返り討ちに合う。
綿密な計画を至急立てますので、その指示に従ってください」
才人デレックスの言葉に皆頷く。
実はアルベアト王は次期宰相に友でもあるデレックスを熱望していた。
現宰相は先王から支えていた忠臣であったが、年齢を重ね衰えも出ていた。
しかしながら、デレックスは実家の商会を継ぐ事を選択した。
理由はふたつあった。
ひとつは両親を心配していた事。
もうひとつは本無しの身で、政治に深入りする事を良しとしなかったからである。
そして今、忠臣と思われた現宰相があちら側だった事が判明した。
シュルツ卿は、デレックスの宰相就任はもう時間の問題だと考えた。
当然である。
最早、王国の危機である。
才人デレックス以外誰が宰相を務められるものか。
デレックスは相関図を元に対案を作成していく。
副団長が取り込まれている騎士団は団長経由で、団長が取り込まれている憲兵は副団長及び副長たち経由で計画を推し進める。
幸いな事に魔法師団では指揮系統で取り込まれている者はいなかった為、自由に動けるだろう。
勢力図を確認し、どこにどれだけの人員を配置するか、決めていく。
対案が大方出来上がった頃には、エックハルト伯爵も書類をほぼ確認し終わっていた。
「相関図にある者は捕縛するだけの証拠が揃っていた。クラウゼは娘夫婦を焼き殺され、執念でこれだけの証拠を集めたのだろう。
相手側にいたからこそ集められた証拠も多い」
デレックスは頷き、エックハルト伯爵に言った。
「義父上、陛下より密命を出して頂きましょう。まずは、大物から捕縛します。宰相、大臣三名、憲兵団長、騎士団副団長。
また、魔石が埋め込まれている可能性が高いのでくれぐれもご注意頂くようお伝えください」
「大物を捕縛後、指揮系統を陛下直で一本化します。ヒーリーヌ様には事が済むまで一旦北の塔にお移り頂きましょう」
光魔法書持ちのアルベアト王の力なら、どんな敵にも負けないであろうが、体が弱っているヒーリーヌ王妃には危険がある。
「これだけの証拠が出ても、毒蛇とヒーディを追い詰める物がひとつもないとは」
エックハルト伯爵はため息を吐き呟いた。




