53.悲壮
「何を言うの、クラウゼ。
生きて罪を償うのよ」
ファティマが半狂乱で叫ぶ。
「何か魔石を止める手立ては無いのですか」
ウィノラはエックハルト伯爵、シュルツ卿、デレックス、フォルカーに泣き叫ぶながら尋ねる。
エックハルト伯爵が寂しそうに言った。
「魔石の爆発を解除出来るのは術者本人のみだ」
クラウゼはむしろ清々しく笑って言った。
「私に言える事ではありませんが、どうかリーゼロッテ様を宜しくお願いします。
さぁ、エックハルト伯爵お願いします」
クラウゼは窓に近づき開くと、爽やかな風が室内に入って来た。
「わかった」
エックハルト伯爵が風魔法でクラウゼを窓から遠くへ吹き飛ばそうとすると、フォルカーとウィノラも横に並ぶ。
「父上だけに重荷は背負わせませんよ」
フォルカーの言葉にウィノラも頷く。
3人の風魔法が一気にクラウゼを塔の結界まで吹き飛ばす。
ゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーー
クラウゼの体から一気に爆炎が上がり、
一瞬で燃え尽きた。
側にいれば水の結界でも張らない限り命は無かっただろう。
居間の面々は暫く呆然と立ちすくんだ。
5階のリーゼロッテの部屋にいたイエルが螺旋階段越しに大声で聞いて来た。
「皆さん、大丈夫ですか。
何があったのです」
イエルの言葉にはっとして、シュルツ卿が扉を開け螺旋階段を見上げ叫ぶ。
「もう危険はない。
後で説明するので、イエルはリーゼロッテ様をお守りしていてくれ」
ただ事ではないシュルツ卿の剣幕に、勘の良いイエルはわかりました、と答え引っ込んだ。
シュルツ卿が居間に戻ると、まだ皆が衝撃に打ちのめされていた。
特にこの2年半余り、常に共にあったファティマの焦燥は見るも無惨な有様だった。
「ウィノラ、ファティマさんを部屋で休ませましょう。少しついていて貰えますか」
ウィノラはフラフラと立ち上がり、ファティマを促して居間を出ようとする。
「ウィノラ、貴女は大丈夫ですか」
思わずシュルツ卿は声を掛ける。
ウィノラは小さく頷き出て行く。
「まさかこんな事になるとは」
流石にデレックスも衝撃から立ち直っていなかった。
シュルツ卿はユング子爵に向き合って謝る。
「試す様な真似をして申し訳ありませんでした」
ユング子爵は被りを振って言った。
「内部に漏洩者がいる事は薄々気づいていました。クラウゼが怪しい行動をしている事も」
「やはり勘づいておられたか」
エックハルト伯爵が呟く。
「アドラーの巡回中に怪しい行動を見かけたのです。
クラウゼは外出後に、必ず王宮である侍女の女とすれ違う。決して会話はしないのですが
毎回ですので不審に思っていました。
早くご報告すれば良かったのに、申し訳ありません」
「仲間を告発するような真似は中々できませんからな」
エックハルト伯爵がまたポツリと呟く。
フォルカーはエックハルト伯爵を気遣い言った。
「クラウゼさんは被害者です。
悪いのは、ヒーディと毒蛇。
俺たちは仲間を殺されたんです。
悲しいし、悔しいけれど、二度と奴等にやられないように守りを固め無ければ。
それこそがクラウゼさんの望みです」
塔内の面々には辛過ぎる現実である。
せめて、元気づける役割を果たしたいと口を出したフォルカーであったが、若いフォルカーにも過酷な現実であった。
「フォルカー、ありがとう」
シュルツ卿が気丈に答えたが、その様子を見たデレックスは心配になった。
そして、尚のこと、情け容赦無いあの毒蛇たちに憎しみを募らせたのであった。




