52.秘密
「私とウィノラの行き先を知る者はただ一人、あなただけです。カイ・クラウゼ」
ファティマとウィノラは驚愕で固まっている。
ユング子爵は溜息をついた。
クラウゼは俯いたまま黙っている。
「貴女の事は、諜報部がある事実を掴んでから、注視していたのです」
シュルツ卿は静かに話し出す。
「貴女には昔秘密裏に産んだ子どもがいた。
王宮侍女になる前の事です。
男爵令嬢だった貴女は移り気なある貴族の子を身籠ったが、相手は別の令嬢と結婚してしまい、困った貴女は密かに子どもを産みある商家に養子に出した」
クラウゼの肩が震えている。
「その子は女の子だったそうですね。
そしてその子は年頃になると、革職人の男性と結婚した。やがてふたりには男の子が生まれ幸せに暮らしていた」
シュルツ卿が一旦間を置くと、クラウゼは昂然と顔を上げて言った。
「仰る通りです。
私は女の子を産みました。
そして商家に養子に出しました。
未婚の貧乏男爵家の娘に何が出来たでしょう。
あの子は大切に育てられ幸せな結婚をしました。そして男の子まで生まれました」
皆クラウゼの話を静かに聞いていた。
「私が悪かったのです。
あの子の事が気になって、孫の事も気になって、あの子の夫に革細工を頻繁に頼みに行くようになりました。
それを毒蛇に気付かれたのです」
クラウゼの声が大きくなる。
「毒蛇は私の秘密を嗅ぎつけると、脅しをかけて来ました。ヒーリーヌ様に毒を盛れと言われましたが、断り続けました。
でも、ある日」
クラウゼはがっくりと肩を落として泣き崩れて言った。
「毒蛇はあの子と夫を店ごと焼き払ったのです」
ファティマとウィノラは涙が止まらなくなった。
「そしてひとり残された孫を人質に取ったのです」
「その時私はもう北の塔におりましたので今度は生まれたリーゼロッテ様についてや塔内の情報を渡せと言われました」
「私には情報を渡すしか出来なかった。
ただひとり残されたあの子を見殺しには出来なかった」
クラウゼは涙を拭き毅然として言った。
「リーゼロッテ様や皆さんを危険な目に合わせた事はお詫びします。わかっていたのです。あの子はもう生きていない事を。
でも信じたくなかった」
エックハルト伯爵がコホンと咳払いをしてから聞いた。
「お孫さんの事は薄々気づいておられたのか」
ファティマとウィノラの涙は洪水の様に流れ、しゃくり揚げている。
「あの子や娘夫婦の無念を晴らすのが、私の最後の努めだと思っています」
「私の部屋に毒蛇を追い詰める証拠がいくつか残してあります。
罪を犯した私の図々しいお願いではありますが、それで毒蛇とヒーディを断罪して欲しいのです」
ふぅと息を吐き、クラウゼは窓の外を見た。
「私の体には自白すれば爆発する魔石が埋め込まれています。間も無く爆発するでしょう。リーゼロッテ様や皆さんを守るために、
エックハルト伯爵、私を窓からなるべく遠くへ飛ばしてください。
嫌な役目を押しつけてすみません」




