46.光
リヒター神官長の宣言後、王女を腕に抱き、シュルツ卿とウィノラが、台座へと向かう。
さながら、王女の二親のようだ。
王女は金糸銀糸の上品なドレスを着ている。
リヒター神官長は王女の瞳を覗き込むと手のひらをかざした。
手のひらから、キラキラした淡い光が放たれ、王女の全身が包まれた。
神官長は鋭い目で全身を嬲るように確認し、一呼吸置いてから告げた。
「名はリーゼロッテ、リーゼロッテ・アインホルン王女、魔法書は見えません」
その瞬間、国民夫妻は項垂れた。
リヒター神官はさらに続けた。
「リーゼロッテ・アインホルン王女に
祝福を与える。
愛と共にあらんことを」
それは本無しに贈られるお決まりの言葉であったが、虚しく王殿に響いた。
儀式は終わり、悲嘆に泣き崩れるヒーリーヌ王妃を抱き抱え途方に暮れるアルベアト王に
リヒター神官長は近づいて言った。
「陛下、私にはリーゼロッテ様の魔法書が見えません。しかし、不思議な力は感じます。
今まで感じた事のない力です」
アルベアト王とヒーリーヌ王妃は、悲嘆に暮れる二親への情けの言葉と受け取り、感謝した。
「神官長、ありがとう」
国王夫妻はリーゼロッテ王女に近づき、
「魔法書が無くても、私たちの大切なかけがえのない娘だ」
と告げ、肩を落とし、王宮へ戻って行った。
残されたシュルツ卿とウィノラ、エックハルト伯爵も呆然としていた。
神官長になら魔法書が見えるかもしれないと、一縷の望みを託していたからだ。
ウィノラは気を取り直し聞いた。
「神官長様、不思議な力とおっしゃいましたが、それはどういったものでしょうか」
神官長は静かに答えた。
「私にもわからない力です。魔力ではなく、
包み込むような優しい光を感じます」
「優しい光ですか」
シュルツ卿の目に光がともる。
「私は神官として何千という子ども達の儀式を行なってきましたが、魔法書が見えない子どもに光を感じるのは初めての事です」
「初めて」
エックハルト伯爵もようやく話に耳を傾ける。
神官長は静かな声で続けた。
「これはあくまで私の勝手な推測ですが」
「もしかしてリーゼロッテ王女には、魔法書があるのかもしれません。私たちには見えないだけで」
神官長の推測に一同は驚愕した。
「もちろん、勝手な推測ですので、ここだけの話にしていただきますが」
「よくわからないのだが」
エックハルト伯爵が頭を振る。
「それは全ての魔法書が見えるものではない、という事でしょうか」
ウィノラが尋ねる。
「それとも、今は見えなくとも、いずれ何らかの機会を得れば見えるようになるものかもしれない」
シュルツ卿も繋ぐ。
「そういう事です。魔法や魔力はまだまだわからない事が沢山あります。
リーゼロッテ王女の不思議な力は心を平静にすれば感じることができますよ」
シュルツ卿とウィノラ、エックハルト伯爵は
顔を見合わせ、静かに目を閉じた。
心をまっさらにすると、身体中が優しい光で満たされた。
「これは」
三人は驚き、リヒター神官長を見る。
「その光が何かは今はまだわかりませんが、
リーゼロッテ王女はただの本無しではないという事です」




