45.儀式は幕を開ける
周りの懸念を他所に王女は皆の溢れるほどの愛情を受けて、すくすくと育っていた。
神殿での命名儀式を明日に控えた日に、王宮に新たな知らせがもたらされた。
「陛下、シュレヒテ侯爵に第1子の姫君が誕生されました。金髪碧眼の美しい御子との事です!」
「ヒーディに娘が。金髪碧眼。これは厄介な事にならねば良いが」
生まれたばかりの子の目の色がはっきりわかるのはおそらく産月を延ばしたからに違いない。
それにしても、よりにもよって王家筋の金髪碧眼とは何と神も酷い事をするものだ、とアルベアト王は思った。
ヒーディに娘が生まれた事は、すぐさま北の塔にも知らせが来た。
「わざわざ王女の命名儀式と魔法書の鑑定が、明日という日に産むとは」
王女をこよなく愛するエックハルト伯爵の怒りは相当なものだ。
「お父さま、生まれてきた子に罪はありませんわ」
ウィノラのいう事は最もであったが、襲撃を含め素直に肯けないエックハルト伯爵であった。
「産月を故意に悪意で延ばした影響が、どんな形であらわれるのか、それが恐ろしい」
ウィノラは義兄デレックスの言葉を思い出した。
「産月延ばしの影響もさることながら、あの毒蛇とヒーディの子です。どんな怪物になるのやら、今から身震いがしますよ」
生まれた子は、侯爵家とはいえ王家の血筋の姫ということになり、これで「魔法書持ち」なら、王女の「本無し」を盾にとられ、あのヒーディが暗躍することは目に見えている。
「次の王位争いは血生臭いものとなりそうだ」
アルベアトは独りごちた。
北の塔では皆が静かに明日の訪れと、奇跡を祈った。
何もわからない王女の笑顔だけが、皆の救いだった。
翌日、神殿での命名儀式はアルベアト王の命により密かに始まった。
もちろん、昨日出産したばかりのヒーディとシュレヒテ侯爵は欠席だ。
アルベアト王はそもそも、儀式への参列すら認めていなかったのは、側近のみが知る話だ。
通例ならば、王家の命名儀式には100人を超える神官が集い儀式に参加するが、神官長を含め僅か数人で執り行なう事となった。
儀式に呼ばれなかった神官たちはこのところ国中で囁かれている噂は本当であると、確信し、さらに噂が広まった。
噂とは、王女は魔法書持ちではなく容姿も醜いなどというもので、さらに尾鰭がつき、
国民の不安を煽った。
この噂を流したのが毒蛇シュレヒテ侯爵である事は明白であったが、またしても何一つ証拠は得られなかった。
「毒蛇とヒーディの高笑いが聞こえるようだ」
温厚なシュルツ卿ですら、吐き捨てるように
ごちた。
やがて、儀式の当日となり、シュルツ卿、ウィノラ、エックハルト伯爵が王女の付き添いとして王殿に赴いた。
王殿内には、神官長と副神官長、そしてアルベアト王とヒーリーヌ王妃しかいない。
「一国の王女様の儀式であるのに」
ウィノラは致し方ない事と頭の中ではわかっていても、寂しさを感じた。
王女が入殿すると、
神官長のリヒター卿が厳かに宣言した。
「これよりアインホルン王国、第一王女の命名儀式及び魔法書鑑定を執り行う」
賽は投げられた。




