44.懸念
デューラー伯爵夫人の証言で仮説が立証されたが、毒蛇やヒーディ夫人を追い詰める証拠は依然として見つからず、虚しく時だけが過ぎていった。
その内に誰もが想像だにしなかった暗雲が立ち込めた。
王女は後2ヶ月程で満1歳を迎えようとしていた。
育ちはすこぶる良く、伝い歩きも活発で、片言の言葉も話すようになっていた。
イエルを「いーいー」と呼び、イエルはますます王女シンパとなった。
発育や知能はすこぶる優秀だが、アルベアト王や塔の面々には、漠然とした不安で覆われていた。
通常、魔法書持ちは満1歳が近づくにつれ、魔法書がボンヤリと現れ始めるのだが、王女にはその気配が無かった。
「魔力は僅かに感じるのですが」
ファティマは心配で夜も眠れない様子だった。
アルベアト王は毎日のように、北の塔を訪れ
魔法書の確認を行なったが、こちらも虚しく時だけが過ぎていった。
「このまま魔法書が現れ無ければ、大変な事態になる」
誰もが恐れていた事態になってしまう。
「ヒーディ夫人のお腹の子は間違いなく強大な魔法魔力の持ち主だ。正当な王族ではないと証明出来ないこの状況では、その子に王位をと要求してくるだろう」
シュルツ卿が苦痛に満ちた顔で言った。
「そして間違いなく産月を延ばしていますから、その子には何らかの問題が生じるでしょう」
ウィノラが悲しそうに呟く。
「その子には何の罪もありませんのに」
ため息をどれだけつこうと、幾ら祈ろうと、
王女に魔法書は現れなかった。
ただ、イエルだけは心配していなかった。
「王女様に魔法書が無くても王女様にかわりありません。それにこんな優しい気持ちにさせてくれる王女様には何かの力があるはずです」
一同はイエルの言葉に癒されたが、王位争いが熾烈である事は否めない。
来週には神殿での命名儀式が迫っていた。
アルベアト王も塔の面々もデレックスも、
皆が焦っていた。
「微かではあるが魔力は感じる。しかし魔法書は認識出来ない」
魔力があろうと魔法書が無ければ魔法は使えない。
そして魔力すら僅かなものだ。
「神殿はどんな判定を下すのか」
アルベアト王は頭を抱え呟いた。
塔の面々も胸が潰れる思いだった。
産後の肥立ちが悪く神官にはこれ以上の子は望めないと言われており、未だに本調子でないヒーリーヌには、ギリギリまで魔法書の事は秘匿にされていたが、アルベアト王は覚悟を決めて告げた。
「本無しに国は統治出来ないと言われるだろう」
アルベアト王は小さく呟いた。
ヒーリーヌ王妃は涙を流し自分を責めた。
「私の魔力が減っていたからです。
悪いのは私です」
魔力を使い果たすまで、民のために尽くしたヒーリーヌ王妃が、自らを責める姿はアルベアト王を更に苦しめた。
「ヒーリーヌが悪いわけではない。
全ては巡り合わせだ」




